延王×陽子／狩野様

　　　『紅い花びら』

　政務の最中、突然、延王が来たとの知らせを聞いた。
　聞くやいなや陽子は立ち上がり、出迎えのために足早に廊下を歩いた。

　なんと言っても、五百年以上も国を治めている希有な王が来たのだ。陽子の登極の手伝いをし、なおかつ事があることに手助けをしてくれる。
　普通なら、弱国の慶を相手にしてくれるだけでも有り難いのに、良き後ろ盾となってくれている。そんな相手を蔑ろにることは絶対に出来ない。

　貴賓室へ向かう途中、陽子の後ろに数人の官がついていく。その先頭を軽快に陽子は歩いていった。

　扉を目の前にして、陽子は服の長い裾に足をとられ、転倒しそうになった。
　だが、床に身体が着く瞬間、身体が止まる。
　力強い腕が自分を支えていた。
　上を向くと破顔した延王の顔があった。
「もっ申し訳ございません延王」
　延王の顔を見るやいなや、陽子は言った。
「なんの、それよりもどこも傷ついていないな」
「はい」
　陽子は支えられながら、咲き誇る華のような笑顔を尚隆に向けた。
　そして、軽い物を扱うかのように、尚隆は陽子を抱える。
　そんな二人を慶の官は見ている。
　その視線に気がついた陽子は、尚隆の耳元で囁く。
「延王・・・。官が見ていますのでおろしていただけませんか？　私にも一応、威厳というものがありますので」
「それも、そうだが・・・・・・・」
　尚隆は周りを見回し陽子にそっと笑顔を向け、声高に言う。
「景王は足を捻られたそうだ。このまま医者のもとへ向かうがよろしいか」
　流石の官も、延王に逆らうことは出来ずただ頷くだけ。
　気の利く官は、医者への道筋を延王に教えた。

　官を残し、延王は医者の元ではなく陽子の臥室へ進んで歩いていった。
「ちょっと延王、なんで私の臥室に向かっているのですか？」
　尚隆はただ笑顔を陽子に向けるだけだった。
「もう大丈夫ですし、早くおろしてください」
「遠慮はするな。陽子と俺の仲じゃないか」
　訝しげに陽子は尚隆を見る。
「さぁさぁ、遠慮はするな」
「いいえ、だめです」
「俺は全く気にしない」
「・・・でも」
「それとも、このまま俺と一緒に雁に行くか？」
　尚隆はニヤリと笑う。
　陽子は何も言えなくなり、困るだけだった。

　そんなやりとりをしていたら、あっという間に陽子の臥室の前に着いた。
「なぁ、陽子・・・ここまで来て、引き返すわけにはいかないだろう？」
「・・・・・・まぁ、そうですけど・・・」
「じゃぁ、決まりだな」
　尚隆は思いっきり良く扉を開け、足どりも軽く入っていった。

　すぐ側にあった椅子へ陽子を慎重におろし、自分は座らず、机に寄りかかった。
「ありがとうございます延王」
　尚隆は溜息をついた。
「陽子・・・前も言っただろう尚隆でいいと」
　困った顔をして陽子は言う。
「そんな、無礼なことはできません」
　尚隆は机から体を離して、ごく自然に陽子の手を握った。そのことに陽子は気づいてはいたが、逆らわなかった。
「俺は、こんなに陽子のことを愛しているのに・・・つれないな・・・」
　握っていた陽子の手を自分の口元へ持って行き口付けする。
　尚隆の唇が触れた瞬間、陽子の指先は急に熱を帯びた。まるで、指先に
心臓があるように血の巡りがはやくなる。
　唇は指先から手首に移る。華奢な手首に、跡が残るくらい強く吸う。
　今度は心臓が手首に移動してしまった。
　すでに、心臓の鼓動は速く、それを悟られないように尚隆の側から離れたかった。椅子から立ち上がり離れようとしたら、逆に手を引かれ抱きしめられてしまった。
「陽子・・・この前俺が言ったこと覚えているか？」
　先日、陽子が雁に行ったときに陽子は尚隆から告白されていたのだった。
　陽子自身、尚隆が自分に対して恋慕の情を持っていた事には気がついていた。
　だが、今までの人生の中で、そう言う感情が芽生えたことがなかった。
　尚隆のことは嫌いではない、むしろ好意を持っている。だが、いざ恋愛感情となると経験したことがないので分からない。
　その時陽子は素直にこのことを言った。そして、『時間が欲しい』とも。
「答えは見つかったか？」
　抱きしめられながら陽子は首を振る。
「そうか・・・でも、こうされても嫌ではないのだろう？」
　尚隆は、耳に低く響く声で囁いた。
　陽子もそれには頷く。
　おもむろに、尚隆は右手を陽子の頭へ持って行き自分の胸へ押しつける。
「心臓の鼓動が聞こえるか？」
　そこからは、やや速い鼓動が聞こえてくる。
「滅多なことが無い限り、俺の心臓は速くならないんだ。本当に久しぶりだ」
　優しく囁く尚隆の声に、陽子の心臓は益々鼓動が速くなる。
　何か言いたいのだが、声が喉に詰まってしまい言えない。
　尚隆は、赤く燃えるような陽子の髪にいくつもの口付けを落とす。

　陽子はただ、されるがままになっていた。

　こんな風に抱きしめられたのも初めてだった。
　こんな風に愛の囁きを言われたのも初めてだった。

　こうされるのが嫌ではなく、むしろ嬉しい自分がいるのだが、陽子自身、自分の気持ちが分からない。
　ただ、延王の腕が暖かいこと、そばにいると普段の自分と少し違うことしか分からなかった。
　抱きしめられながら、そのことを陽子は考えた。

　尚隆は陽子をお互いの顔が見えるくらいに離した。
　陽子は尚隆を見上げる。
　そんな陽子の顔を愛おしく見、尚隆は顔を陽子のもとへ下げた。
　陽子は無意識に瞳を閉じる。
　額に暖かな物を感じた。
　それはゆっくり離れ、そして、陽子は瞼を上げる。
　陽子は何をされたかやっと理解した。
「えっえっえっえ、延王～」
　ニヤリと笑い、尚隆はもう一度抱きしめる。今度はきつく。
「陽子、頼むからそんな無防備な顔、誰にも見せるなよ」
「・・・」
　突然のことに圧倒され、陽子は思うように声が出ない。
「返事は？」
「・・・・・・・・・はい」
「俺のこと好き？」
「はい」
「じゃぁ、俺のこと愛してる？」
「・・・・・・・・・・・・」
　陽子はだまり、返事をしなかった。まだ、自分の気持ちを理解できていないのだ。
　そんな陽子を見て尚隆は、ポンポンと背中を優しく叩く。
「・・・・・・・・・陽子、あまり深く考えない方がいい。簡単なことだから」
　溜息混じりに尚隆は言った。
「・・・・・・」

　そして、尚隆は素早く陽子の首元へ唇を持っていき、口付ける。
「答えを聞くまでに悪いい虫がつかないように、まじないをしておいた。・・・唇には答えを聞いた後にしておこう」
　耳元で尚隆は甘く囁く。
　陽子は突然のことに何も反応出来ず、ただ天井を見上げていた。

　尚隆は体を陽子からゆっくり離した。

「まぁ、答えははやく聞きたいが、焦らず待つことにする」
　そう言い、穏やかな笑顔を陽子に向けた。

「じゃあ、陽子のとこの冢宰とちょっと話をしてくる。続きはまた後で・・・」
　足どりも軽く、尚隆は部屋から出ていった。
　陽子はその風景をただ、呆然と見るだけだった。

　尚隆と入れ違いで、景麒が入ってきた。
　そして、景麒は惚けた顔をし立っている陽子を見つける。
　心なし、陽子の顔は赤味を帯びていた。
「主上、如何なされました？」
　陽子は返事をせず、宙を見ているだけだった。

　頬も熱を帯びてはいたが、そこ以上に、先ほど尚隆の唇の触れた部分の方が熱を帯びていた。

　了

2001.06.19

……狩野一士様のコメント……

ぎゃ～はずかし～！
三チュウではなく四チュウになってしまいました。
本当はもっときわどいところにしようと思ったのですが、
流石にそれは書けなく、額になりました。
それにしても恥ずかしい～vv
雁主従との話を書くと、ものすごく恥ずかしいです・・・(;´д｀)トホホ。
ちょっと長すぎたかしら・・・。

延王×陽子で、髪チュウ、首筋（うなじ）チュウ、手首（指）チュウ、の三連チュウという無茶なリクエストをしちゃいました（笑）　

ぎゃーーー！！！

私のこの発狂絶叫ぶりが伝わっていただけるでしょうか！
うえーーーん（泣）
生きててよかったー！！

メールで送られて来たんですが、もう、延王が現れた時点で「ぎゃー！」
「このまま医者のもとへ向かうがよろしいか」の口調に「きゃーｖ」
あとはただただ、左手で緩む口を押さえて読み続けました。
頬が……頬が、マジで緩むーーーっ！

チュウリクがこなされて行くたびに、私のハートは破裂寸前でございました。
それこそ、陽子の心臓のように（笑）

乙女回路がついている方で、この小説に萌えない人はいないでしょう。

ラストの延王のセリフ「続きはまた後で…」って！！
それって！！（笑）

裏サイト行きですか！？

延王！！

紅い花びら、たくさんつけて~~犯って~~やってくださいっ！！

狩野様、本当にありがとうございましたー！