泰麒のシリアス／Ｈ.ｖ.Ｈ.様

　　　『異形』

「帰りましょう。李斎」

　戴へ。
　僕たちの、帰るべき場所へ。
　そこには過酷な試錬が待ち受けているだろうと、容易に想像がつく。
　それでも。
　僕たちは帰らなければ。
　そして。
　僕は、もう無力な子供ではない。
　相変わらず、弱い力しか持たない身だけれど。
　でも。
　僕は、あの頃とは違う。
　力は強くないけれど、あの頃は持っていなかったものを持っている。

　汚濁。
　屈辱。
　敗北。

　そんなものを麒麟が知るべきではないと、人は言うかもしれないけれど。
　けれど。
　僕には必要なものだ。
　そんなものを受け入れる精神（こころ）が麒麟にあるのかと、人は言うかもしれないけれど。
　僕にはある。
　それが異端だと言うのならば。
　それが異形だと言うのならば。
　おそらくそれが、黒麒であるということなのだろう。

　僕はあの頃とは違う。
　汚辱を知った。
　悪徳を知った。
　闇を知った。

　それらを知ったことで、僕は靱（つよ）くなった。
　天がそれを僕に強いたのは、誰よりも靱（つよ）くある必要があったのだろう。

　純粋であることは容易い。闇を知らないままでいるだけで良い。
　闇を知り、悪徳を知り、知りながらそれを選ばないのが、賢明というものだろう。
　僕は、純粋であるより賢明でありたい。
　否、僕は、賢明であらねばならない。

　僕はあの頃とは違う。
　汚辱を知った。
　悪徳を知った。
　闇を知った。
　その果てに。
　憧憬は理想になり、夢は目標になる。
　それは戴極国に、何より必要なもの。

　きらきらと輝く金色の気配を感じる。
　生真面目な気配。
　優しい気配。
　真っ直ぐな気配。
　心をあたたかくしてくれる、仲間の麒麟の気配。
　金色の髪が揺れるように、気配が輝いては揺れる。

　あの頃は寂しかった。
　どうして僕だけ、輝く金色の鬣を持たないのだろうかと。
　どうして僕だけ、異形で異端なのかと。
　けれど。
　けれど、僕はもう寂しがらない。
　真面目さ。優しさ。明るさ。実直さ。
　僕に必要なものは、それらではなかったのだ。
　戴極国に必要なものは、それらではなかったのだ。

　汚濁。
　屈辱。
　敗北。

　それによって得られる、闇色の靱（つよ）さ。
　それが、天が僕に要したもの。

　僕は、明るい金色の輝きを持たない。
　けれど、求められる場所がある。
　帰るべき場所がある。
　大いなる闇を乗り越える、内なる靱（つよ）さを何よりも必要としている場所が。
　だから。

　だから・・・・。

「帰りましょう。李斎」

　戴へ・・・・・・

　了

2001.12.06

H．v．H．様のサイト「棕櫚の庭園」１周年を記念して作られた作品(の中のひとつ）です。
「孤独」をテーマにした泰麒のミニ小説。

なんだか、普通はお祝いに私たちがなにかさしあげなくちゃいけないんじゃ……とか思うのですが(笑)
こんなステキなもの、もらわなきゃ男が廃るってなものでして(誰が男だ）
ありがたくいただきましたｖ　えへへｖ

はーさまのシリアスは本当に胸にきます。通称「痛い作品」(笑)
月渓×祥瓊もそうだったけど。
すごく引き込まれてしまう文章で大好きｖ
胸が！　心臓が！　キュンキュン痛いんだっちゅうの！
涙出そうになるし！
本当に切な系の小説です。

泰麒の話もこれからが楽しみですねｖ
新刊が出たらきっと泰麒関連の小説ってたくさん出ると思うんですよ。
でも、少なくとも丈田の中では彼については初心者。真っ白なので、本当に新鮮ｖ　
泰麒に関しては純粋に応援することしか出来ないのです。

次の新刊では絶対に大泣きしちゃうのは目に見えているんですけどね(笑)

早く泰麒が孤独から抜け出られるように祈りたい。
泰麒のいる場所は戴以外――驍宗様のそば以外にはないと思うから。

H．v．H．様、本当にありがとうございました！
サイトの１周年、本当におめでとうございます