浩瀚×陽子/大庭鳩様





   
『calling』





 息をするように恋をしていた、と思う。

 声は眼差しはまるで伝染病のように呼吸するたび喉から肺へと。じわじわとタチの悪いウィルスのごとく、内側から身体を冒していて、気が付いたときにはもう手遅れだった。
 たかが視線一つに。これほど力があるということを、彼女から教わったような気がする。そう、たかが視線一つ。誰もが、何気なく流す視線の一つが、これほど心を騒がせ、波立たせる。知らなければ気が付かなければ、何というほどのことはないはずの、形の無い、眼差しの誘惑。しかし。
 どうして気が付かずにいられたろうか。弱々しい真冬の太陽などではない。真夏の陽射しの、ほとんど物理的な、重力にも似た視線の圧力。当人が無意識であるのなら、意識的よりずっと罪深い。今も当てられる視線の強さに、浩瀚は縛られる己を自覚せざるを得ない。

「・・・浩瀚」

 名を、呼べない。呼んでしまえば、終りだと思うから。

「浩瀚」

 如何なるときもその名を。名を呼んでしまえば、自分を塞止めるものは何もなくなる。例え、その視線に全てを許されていたとしても、浩瀚に一線を越えることは許されていないのだ。
 甘美な、甘美な生き地獄。

「浩瀚」

 ひと言名を呼ばれるたび、身体が震えるのだ。名は、呪だという。なら、呼ばれるたびに縛られている。強く強く、限界などないほどに。もはや、離れて生きていられる身体ではないだろう。

「浩瀚」

 罪な人だと思った。
 己の視線に声に、どれほどの力があるかも知らないで。
 知らないくせに、何かを乞うる目で声で人を見つめてはいけないのだと、誰もあなたに教えなかったのですか?

「私は」

 聞きたくなかった。本当に、聞きたくなかった。聞いてしまえば、私はあなたにひれ伏すであろう幾人もの男の、その先頭になるでしょう。

「お前が」

 愛の言葉など欲しくはなかった。愛などと、移ろいやすく不確かなものは。 愛は簡単に憎しみにその姿を変え、愛よりも強く人を傷つけるだろう。愛と憎悪は一人の神の二つの顔であり、その力は、人が扱うことの出来る一番の凶器だ。
 そんなものより、永遠に続く信頼と友愛が与えられるべきなのに。ただその側で、永遠の王朝を築く助けとなるだけで良かったのに。
 手の届かぬ銀の月を、愛でるだけで幸せだったのに。

「---・・・・・」

 誰よりも愛おしく、彼の上に君臨する女王が彼の名を呼ぶ。
 これほど愛してるからこそ。
 続く言葉に絶望的なほどの歓喜を覚え、その魂を締めつけるほどの歓喜に、浩瀚は打ちのめされた。





 了





2002.01.01





……大庭鳩様のコメント……

オフ会の温泉掲示板に、酔った勢いで書いた代物。
撤去予定の掲示板だったものだから、
案の定管理人の塔子さんにしか気付かれませんでした(笑)
もったいないので書き直してアップ。
ああ〜ん最近本当に浩陽が好き!!
実に恥ずかしい内容を書きました。









もちろん気づいてましたヨ!!

塔子さんの次くらいに(笑)


やっぱり鳩子さんの文章は色気があって、その言葉ひとつひとつににクラリとしちゃうのです。

だから鳩子さんの小説がほしくてほしくて、
獲物を狙う鷹の目のごと鋭く「東方コンフィデンシャル」のキリ番を狙っているのですが(笑)

なかなかなかなか……(泣)



だから、これが持ち出し掲載許可とあったときには舞い上がって、マッハで飛びつきましたデス(笑)


でも、鳩子さんのサイトにアップしてある小説独特の文字と行の「間」がうまく出せなくて!!

それが伝えられないのが本当に悔しい!!

文字は一字一句そのままなんですけど、どうしてもあの「間」が!!

間が!!! 間が!!!!! 私のパソコン技術では出せない!!(泣)


陽子が浩瀚の名を呼ぶたびに、もーー! ゾクゾクしちゃうんです!!
それなのに、ぎゅうぎゅうに詰めてある≪炎帝月帝≫の文字と行間隔ではそれがうまく出せなくて!!(泣)

それだけでもお伝えしたくて、陽子の言葉を挟んで間隔をあけさせてもらっちゃいました。

いかにも囁くって感じの陽子の声が聞こえてきそうで、
実際にこんな風に囁かれたら(囁くとはどこにも書いてません!)浩瀚もたまらんだろうなあ〜と(笑)
妄想がもやもやしちゃって(笑)


いやでも! 色気がある文章というのはそうなのよ!!
言葉が囁いちゃうの!!


くううう!! 私もそんな文章が書きたいーー!! 超理想です!!






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