泰麒×陽子／葉月様
『降りしきる雪の中を』
♪〜 ジングルベ〜ル ジングルベ〜ル ♪〜
あちこちからクリスマスソングが流れ、クリスマスツリーのライトが綺麗に光っている。
そんな、いつかのメリークリスマス。
クリスマスソングが鳴り響き、明るいイルミネーションに彩られた街の中で、
一人の青年が小さな荷物を抱えながら、あるお店のショーウィンドウに飾られた数々のＴＶの画面を見ていた。
青年は、その画面をじっと見ていた。
画面に映し出されているアナウンサーの実況中継と、アナウンサーの後ろに映っている華やかなクリスマスツリーで今日がクリスマスイブだと気付く。
そして、画面がCMに切り変わると青年はTVから目を離した。
「街はすっかりクリスマス・・・か」
青年はそう呟くとその店を後にした。
青年は、人混みの中を歩き続ける。
歩き続けて辿り着いた先には、誰も住んでいないビル・・・恐らく立て札からすると売り地なのであろう古いビルだった。
青年は、そのビルの屋上へ向かい、「・・・・・・」と青年が何事かを呟く。
すると、地面の中から青年の足下に大きな獣が遁甲してきた。
青年は、その獣に跨り、もう一度街を見る。
都会の街並みは得てして賑やかで、ネオンが空を踊り、騒ぐ声が飛び交っていた。
星も見えない程に濁った夜空。
地上できらめく人工の明かりが、天をいっそう暗くみせ闇を濃くしている。
その闇に溶けるかのように、そびえるビル群。
その光景を――遠ざかっていく地上に目をやりながら、少年は飛び去っていった。
その日、誰も獣に跨った青年を見ることはなかった。
街のイルミネーションが星明かりすらかき消してしまっていたから・・・
青年は、クリスマスソングがだんだんと遠くなるのを感じながら、虚海を渡っていった。
青年が、次に向かったのは慶東国首都堯天、金波宮だった。
天にも届くような大きな山脈を眺めながら、その頂きを目指して夜空を飛んでいた。
そのまま金波宮内を進み続けていると、やっと政務室が見えてきた。
案の定、明かりがついている。
広い堂室内に置かれた重厚な机と椅子。
そこには、腰掛けている陽子の姿が見えた。
よく見ると、書簡を真剣に見ている様子である。
恐らく、未だ楽に読めない文字と格闘しているらしい。
此方の気配には気づいていないようだ。
そこで、青年はコンコンと硝子の窓を叩いてみた。
途端、陽子は此方を振り向いた。
ようやく気づいたようである。
この時間にいるはずの無かった彼の姿に驚きのあまり陽子は筆を置くのを忘れていた。
陽子はしばし呆然としていたが、青年が白い息をしているのを見て、慌てて筆を置いて立ち上がった。
「こんばんは、中嶋さん」
陽子が窓を開けると、青年の穏やかな声が聞こえた。
「た・・・泰麒？」
「どうしたの？ 呆然として」
「泰麒こそこんな夜更けに・・・まさか、何かあったのか？」
「いや、たまたま通りかかったんだよ。直ぐ帰るから」
「待って」
「？」
「その・・・お茶くらい飲まない？」
「はい。では、中嶋さんに甘えさせて頂きます」
陽子の優しい気遣いに泰麒は思わずにっこりと笑った。
温かいお茶を煎れてくると言って小卓にある茶器を取る。
「外、寒かっただろう？あっ、そこに座って」
「わかりました」
泰麒は堂室の中に入ると、傍にあった長椅子に座った。
そこに、はい、と言って泰麒の前にお茶が置かれた。
「ありがとう・・・」
陽子は別に良いよ、と言って泰麒が座っている隣にそっと腰を下ろした。
「一体、どうして此処に？」
「先程まで、蓬莱に居たものですから帰りがけに中嶋さんのところへ寄っていきたかったんですよ」
「・・・それで、彼方はどんな感じだった？」
「丁度、クリスマスだったようです」
一瞬、クリスマス？ と頭の中で疑問が過ぎったが直ぐに思い出せた。
それと同時に、クリスマスのことをすっかり忘れていたことに陽子は気がついた。
「そっかぁ、彼方はもうクリスマスなんだ・・・」
半ば溜息混じりで呟かれた言葉に、泰麒と呼ばれた青年は微かに眉をひそめた。
「・・・中嶋さん？」
「あっ・・・いや何でもない」
陽子は慌てて首を横に振った。
「どうしたんですか？ぼぉーっとして・・・。やはり疲れてる？」
「やはり・・・最近政務ばかりだったから疲れているのかもね」
そんな言葉でごまかして、力の抜けた笑みを浮かべてみた。
泰麒は真剣な眼差しで心配している。
それを思うと陽子はいっそう切なさが募った。
「泰麒は彼方のことをよく覚えているんだ・・・私はクリスマスのことなんて忘れかけていた」
そんな事を口にしてしまった自分に、思わず苦笑いを浮かべる。
「・・・・・・」
陽子の口から小さく聞こえてきたため息に、泰麒はちらりと相手に視線を向けながら思った。
はっきりと数えていたわけではないが、ふだんと比べれば溜息の回数が格段に違う。
先程から何やら考え込んでるのも知っている。
聞いた範囲で現在どれほど忙しいかも知っている。
・・・・・・疲れているんだろうとも思う。
でも何も言ってこない。
相手にしてみれば言いたくないんだろうとは想像がつく。
しかし、一言でも愚痴をこぼしてくれたら、少しは気分も違うのではないかと思わないでもない。
それに、大切な人には暗い顔や不安げな表情はして欲しくなかった。
泰麒は窓の方に顔を向けている陽子の頬に手をかざすと、ゆっくりと自分の方に顔を向けた。
「・・・・・・・・・泰・・・・・・・・・」
しばしの沈黙。
「泰・・・麒？」
泰麒の唇が陽子から離れていった。
陽子は目を大きくする。
その様子を見て、泰麒は苦笑いながら言った。
「暗い顔してたら気分も沈むよ」
その言葉を聞いて、陽子は目頭が熱くなってきた。
「・・・うん」
暫く、泰麒は陽子を抱きしめていた。
「それじゃあ、僕が帰ったらこの包みを開けてね」
夜も更けてきた頃、泰麒は茶器を小卓に置いた。
「泰麒・・・」
かたん、と窓を開けた。
「それじゃあ、中嶋さん。――良いクリスマスを」
優しげな微笑を残してそう言うと、泰麒の姿はこの部屋から消えた。
陽子は、暫し泰麒の消えた窓の外を見つめてから窓を閉じた。
泰麒に言われた通り、小卓に置かれているものを手に取ると、陽子はそっとプレゼントを開けてみる。
そして、笑った。
プレゼントの中身には、ちぃさなペンダントともう一つ・・・・小さな紙が添えられていた。
”親愛なる陽子へ 貴方に幸多からんことを このペンダントに託して メリークリスマス”
たったそれだけの文章。
それなのに、それはひどく温かく、心に詰まった何かを確かに溶かした・・・。
了
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| 2003.01.07 |
……葉月様のコメント……
タイトルは、有名なクリスマスソングの一つである
「Jingle Bells」の冒頭部分を英文和訳したものです。
これを書こうと思った発端は、
１２／１７に放映された某B●ア●メ劇場のお姉さんが言っていた
「可愛い泰麒の小さなクリスマスプレゼント」という言葉に対抗して
「大きな泰麒のささやかなクリスマスプレゼント」というテーマで
書いてみたかったからです（爆
・・・あはｖ（←いちいち張り合うなっつーの！
ということで、葉月サンタから皆さんにメリークリスマスｖ
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ありがとうございます〜！！！！
きゃーｖｖ きゃーｖｖ うふふ〜ｖ
葉月さんの配布〜ｖｖ
何でこんなに嬉しいのかというと、私がぜんぜん泰麒×陽子が書けないからなのです！！
書きたくても書けないのよ〜！！ むずかしいのよ〜！！（泣） むずかしいのよお〜！！！（号泣）
こんなにすてきな泰麒×陽子をさらりと書いてしまう葉月さんを尊敬するッス！！
クリスマスイベント、確かに忙しい陽子は忘れちゃうだろうなって私も思う。
で、みんなに今日はクリスマスよって言われて「あ、そうか」って感じの。
きっと誕生日とかもそうでしょうね。
慶国のことに一生懸命な陽子は、きっと蓬莱のことを思い出す暇もないんですよｖｖ
それだけ一生懸命！！
だから、ふとした拍子に思い出したりして、辛かったり、または懐かしく思ったりするんだろうけど。
きっとそれは外国に行った人が、日本の祭礼を思い出したりするのときっと同じ。
蓬莱を懐かしく思っても、陽子はきっと帰りたいとは思わないと思う。
静かな静かな優しさに包まれるクリスマス。
陽子に幸あらんことを祈りますｖｖ
私もいつかは「きゃー」って言われるような泰麒×陽子小説を書いてみせるぜ！！
何とか今年中には……！！＞＜
ということを来年も言ってそうな私〜（笑）
葉月さん、素敵なクリスマスプレゼント、本当にありがとうございましたｖ
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