『雪の中で』

　私はは凍えてしまいそうになる自分の身体を自分で抱き締めた。

　けれど、温かくはならない。

　傍に居る男の腕の中へ、擦り寄るように身を寄せた。

「寒いか？」

　延王は私を力強く抱き締めてくれる。

　その行為が嬉しかった。

　ほんのりと温かい身体に包まれて、外は吹雪いていて、小さな小屋で避難しているというのに、幸せだと思った。

「人間って不思議ですね……」

　延王は首を傾げて、私の顔を見詰める。

「雪で楽しむ遊びをする時は、もっと雪が積もればいいのに、って思うのに、吹雪いて、閉じ込められてしまうと、早く、雪が止めばいいのに、って思ってしまう」

「ああ。そういえば、そうだな」

　延王は、私を膝の上に乗せると、もう一度、ぎゅっと、抱き締めてくれた。

「雪見酒を楽しんでいると、雪は綺麗だと思うが、こんなに吹雪くとな……」

「雪見酒？」

「風呂の中で雪を見ながら、酒を楽しむ事さ。した事なかったか？」

「ありません」

　そう言えば、蓬莱で見た、テレビ番組で、温泉に浸かった俳優達が、桶に酒を準備して、呑んでいたのを思い出す。ああいうものだろうか。

「では、玄英宮に帰ったら、早速、しようか？」

　そう悪戯っぽく囁きながら、私の顔を覗き込んだ。

　私は、延王の視線から逃れるように横を向いた。頬が熱い。

　それこそ、蓬莱のテレビ番組の女優達のように、身体に分厚いタオルのようなものを巻きつけてなら兎も角、延王はそれを良しとしないだろう。

　延王はくつくつと笑いながら、私の反応を探っているようだ。

　相変わらず、人が悪い。

　けれど、季節事に、何かを共に楽しむのはいいと思う。

　毎年、同じ事をして、楽しみ、去年を思い出す。そして、来年に思いをはせる。

　そういう風に、穏やかに、共に年を重ねれば良いと思う。

　いつまでも。