泰麒シリアス／きよた家様

　　　『眺灯』

　ひゅっ、と鋭利な音を立てて風が吹いた。風は泰麒の、今は短くふぞろいな鋼の鬣にその刃を立て、傷つける隙を狙うかのごとく鋭敏に吹き抜けていく。
　痛いほど冷たい風だった。

　王のいない戴の空は鉛色に垂れ込めている。分厚い雲を抱えた空は今にもその重さを支えきれず、大地へと落ちてきてしまいそうだ。空を宙に繋ぎ止める糸はそれほど細く脆弱に見えた。
　だがたとえ、そうなるとわかっていても今のこの国はそれを未然に防ぐことなどできない。そうなったとき、空を支えることもできはしないだろう。国の柱たる王はなく、天が人へそそぐ慈愛も、天の意思を伝える麒麟さえこの国は失ったのだから。

　寂々たる思いを抱き、泰麒は視線を動かす。しかし大地に生き物の気配は無く、風音だけが虚しく響いている。
　また強く、風が吹いた。

「風、が――」

　大地の熱を奪っていく。
　神獣たる証である角を失い、本来最も忌避すべき怨嗟にまみれ、病み、衰え。王の気配を感じる事すらできない麒麟はこの荒廃に何を思うのか。

　その先に何を見るのか。

　彼が憐れむべき戴の民はこの瞬間にもまた一つ、北の風にさらされて命の灯を消しているのだろう。土へ還されたその熱を、風は彼のもとへ運んできているのかもしれない。何を成すこともできず消えていくしかなかった、その無念の声を。怨嗟の叫びを。慈愛を求める貪欲なまでの希望を――麒麟である、彼のもとへ。

「･･･驍宗様」

　それは唯一の言葉。
　途方も無く渦巻く感情を発露するための、唯一の。
「･･････」
　風が吹く先を見据える瞳に映る景色は、殺伐と枯れ果てている。未来への明るさなど微塵も感じさせない酷薄な景色だ。それは誰の瞳に映るものとも変わらない。
　ただ彼は逸らさない。
　重い空が明日にも落ちてくるやもしれぬと、誰もが不安から目逸らそうと顔をうつむかせている、そんな中でも。

　風が一層鋭く鳴った。
　喪失と悔恨と。創造主たる天の偽善とにその身はまみれたけれど。
　ただ正面から、凛と対峙する極北の風。
　泰麒の目がそれを追った。

「驍宗様」

　遥か彼方。
　黒と白の他、色彩を持たぬ大地の先に彼は。

　光を、見た。

　了

2003.03.08

……きよた家様のコメント……

泰麒は麒麟としての能力を失っているけど、
別に麒麟じゃなくても光を見つける事はできるんじゃないかなぁ、と思います。
どれだけ「それ」がある、と信じられるかってだけで。
麒麟は無条件に王を信じているので見つけやすいってことなんじゃないでしょうか。

きよた家さんが３０万ＨＩＴ記念の皇岐のイラストに挿し小説を～！！＞＜

あああうｖ　うれしいうれしいうれしい～！！

しかも復帰後のリハビリとか言いながらこんなにステキな小説を書くし～！！

本当にありがとうございました～！