延王×陽子/阿雅茅真櫻様
『偶然か必然か』
「陽子?」
赤い髪を一つに束ねた一見少年風を装った少女は尚隆の呟きともいえる小さな声に振り返る。
「延王」
「ここで・・・何している。金波宮の中にいるはずじゃあ」
「延王こそ」
深緑の瞳を和ませて陽子は尚隆に近寄ってきた。
尚隆の黒い瞳は間違いなく、陽子を凝視している。そういう自分に気がついて、少し視線をはずした。
「風漢と呼べ。陽子」
「それもそうですね。でも、尭天にいるなんて、どうしたんですか」
「ちょいとな。それに、敬語はやめてくれないか。うちの官吏を思い出す」
「怒られますよ」
「いつもだ。陽子は怒られないか」
「フフ、最近常習犯になっているんです。今日は少し遠出をしようと思っているんで、今見つかるとやばいな。内緒にしていてください。風漢もどこかにいくところでしたか?」
「そうだな・・・慶の女郎宿を見てみようと思ったんだが、久しく陽子に会ったし、気がそがれた。俺もいっしょに連れて行ってくれないか」
女郎宿という言葉に顔を赤くする陽子を眺めながら、尚隆は自嘲した。
何が、女郎宿だ。
陽子が登極してすでに、四十年が経った。王として最初の節目。
乗り越えるという自信と信頼があった。だが、日々募る不安感。一日中、陽子が何を考え何をしているかを思いだけだった。
ただ、それだけで、近いとは決していえない隣国、慶の尭天にやってきた。陽子の息吹がかかった制度を感じながらこの街を去ろうとしていた。
それが本人に会うとは・・・・
これでいいのか。
陽子がこれから行く州の説明をするのを、尚隆はじっと見る。
このままついていっていいものだろうか。
歯止めは・・・かかるだろうか。
目の前に現れた瞬間、さらってしまいたくなった。
これが、恋というものだろうか。
五百と何十年か生きていて、初めての恋。
笑らえもせんな。
まして、相手が同じ王などとは・・・
確か、誰かが言っていたな。先手必勝だと。
この気持ちを陽子に伝えるのか。
「死んでもいえんな」
「え? なにかいいました?」
「いや、なんでもないんだ」
「おかしな人だ」
陽子の口元が緩んだ。
今はそれだけでいい。
この笑みだけで、いいんだ。
今日会ったのは誰かが仕組んだことか、知らないが・・・
会ってわかった。
俺は陽子を好きというより愛している。
それが分かっただけでもいい。
後は見守るだけだ。
この幼き女王を。
【終わり】
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