浩瀚×陽子/めれーな様
『陥落』
「───主上…あの」
「んー? 何だ?」
いきなり房室へ入ってきたかと思うと、背後から抱きつかれ、「どうしましたか?」と問うても、応えがない。戸惑いながらも、努めて平然の態を取っていると、今度は膝の上へ。「主上」と、諌めてみても一向止める様子はなく、それどころか、ついには卓上に登り───
現在に至っている。
怜悧で通っている男も、愛しい少女に頬を舐められては、さすがに動揺するしかなかった。
頬を赤らめた冢宰など、滅多に見られるものではない。
(猫みたいだな)
人が構おうとすれば、するりとどこかへ行ってしまう。
なのに、忙しい時に限って、構ってくれとやってくる。
(困った方だ)
「遊んで欲しいのですか?」
少女はにこりと微笑みながら、男の首に両腕を回す。
「…この場で襲ってしまいますよ」
男は、空いた方の腕で、少女の腰を強く抱いた。
しかし、少女はさしたる抵抗もせずに、くすくすと笑いながら凭れかかった。
「襲う…?」
浩瀚の両頬に手を添え、その額へゆっくりと、舌を這わせる。
「!」
仙となった者に開くという、見えぬ第三の目がある、額。
自らを仙籍に置いた者からその場所を愛撫される倒錯に、男は息を呑んだ。
額に触れられるのが駄目だなんて麒麟みたいだな、と、笑い含みに少女は独りごち、
「もうすぐここへ、私を捜しに女官がやってくる」
……感情を押し殺すような囁きの裏に、浩瀚はその真意を察した。
「だから、この場で襲うなんて───浩瀚には、無理だ」
気だるげに身体を預ける少女の表情は、男の角度からは窺えない。
浩瀚の中で、何かが弾けた。
「そういうことですか」
言うが早いか、軽々と陽子を抱きかかえると、書卓の裏に廻り、そのまま床に倒れ込む。
「え!? こ、浩瀚!?」
「大声を出すと、女官に気付かれますよ」
意地悪く笑いながら───頤を持ち上げ、有無を言わさずその唇を塞いだ。
主上、と呼びかける、女官の声が、次第に近づいてくる。
慌てて身を捩るも、両の腕は固く掴まれ───何より、喉元を這う男の舌に声を出さじと、抗らうのに精一杯だった。
床を背に、視界に映るのは天井と、庭院に面した、大きな玻璃の窓。
春先の柔らかな日差しが、玻璃を通して更に暖められ、二人の元に降り注いでいる。
(…あたたかいな)
このまま、蕩けてしまいそうだ───
「こういうのも悪くないですね」
不埒な呟きに、はっと我に返った陽子は、自分を捉える腕の力が緩んだ隙に男を突き飛ばし、乱れた胸元を押さえながら勢いよく起き上がった。───居れば返事をすると思ったのであろう、女官の声は、冢宰がいる房室を素通りし、いつの間にか、その気配は遠のいている。
「ばっ…ばか!!」
真っ赤な顔で噛みつくように怒鳴る少女を見上げ、男はくつくつと笑う。
「誘ったのはあなたですよ」
「にょ、女官が来るって言っただろう!? 冗談に決まってるじゃないか!」
「そうやって、私を煽ったのも、あなただ」
その強張った声色に、陽子は思わず、浩瀚を見つめた。
「私を甘く見ないで下さい。その気があれば、どこでだって、あなたを襲いますよ」
「な…!」
「方法がないわけではありませんからね。…ほら、今のように」
益々顔を赤らめ、口をぱくぱくさせる少女に、男はにっこり微笑んだ。
「ですから、決して、隙をお見せなさいませぬよう」
「…ばか」
二度目の甘い罵倒を残しながら、房室を駆け出でていく少女の後姿を、浩瀚は眩しげに見送り、やがて、主上、と呼ぶ女官の声を聞きながら、やおら、書きかけの書類を広げた。
冢宰の額にうっすら残った赤い印を女史に見咎められるのは、もう少し後のことである。
了
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2003.05.18 |
……めれーな様のコメント……
…閣下、黒っ!!つーか、これではまるでチカン…><;(笑)
「どぎまぎする閣下」だったのに、いつの間にか形勢逆転。
…どっちを『勝ち』にしようか考えたんですけど、結局勝ったのは閣下?
それとも、黙っておでこに痕を残した陽子?
(いや、最終的にソレを見つけた祥瓊のひとり勝ちかも(爆))
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襲ってくれーーーー!!!!
どんどん襲ってくれー!><
34万HIT自爆のリクエストに描いた絵の挿し小説を頂いてしまいましたvv
うへへv めれーなさんの浩瀚は本当に理想なんです〜v
しかも、最初に総合掲示板で書いてくださったものより3倍くらい加筆されている!!!
うぎゃーーーーー!!><
うれしいーーv
陽子が攻めていたはずなのにすっかり逆転v
そこが良い〜!!!
めれーなさん! ステキな小説本当にありがとうございましたv
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