驍宗×李斎／明美様

　　　『お持ち帰り』

「蒿里、そろそろ休む時間だぞ」
「はい。驍宗さま。おやすみなさい」
　愛らしい泰麒の挨拶にその場に居合わせた者はみな手を休めて、泰麒を見やった。
「ああ。おやすみ」
「でも、皆さんがお仕事をしているのに、ぼくだけが先に眠るなんて……」
　傍に居た正頼が、自慢の髭をしごいた。目尻が下がり、今にも目が皺に埋もれそうだ。
「おやおや。台輔は何てお優しい事を。本当にこのお優しさを、主の驍宗さまにも是非見習って頂きたいものですな」
「正頼。驍宗さまはお優しいよ？」
　くすっと李斎は笑った。苦虫の驍宗と、楽しそうな正頼。いつもながら面白い組み合わせだ。
「台輔。夜更かしをすると、大きくなりませんよ？」
　李斎はあえてそう言った。泰麒が早く大きくなりたいと願っているのを知っているからと、笑った李斎に対して、睨んだ驍宗が今にもこちらに矛先を向けそうだったからだ。
「夜更かしをすると大きくなれないんですか？」
　大きな目をますます大きくさせて泰麒が言う。
「ええ。そうですよ。たくさん寝て、たくさん食べないと大きくなりませんよ？」
「じゃあ、ぼく頑張ります！　……でも……」
「でも、何ですか？」
「好き嫌いしていると、大きくなれないんですか？」
　出された物はきちんと食べる泰麒だが、それでもやはり苦手な物があるらしい。
「台輔。李斎も嫌いな物がありましたけれど、頑張って食べましたよ。ですから、ちゃんと大きくなれたのです」
　泰麒の視線に合わせ、中腰になりながらにっこりと李斎は言った。
　小さい頃は苦手でも、長ずれば気にならない食べ物というものがある。今は解からなくても、きっと解かる日が来るだろう。
「そうだぞ。正頼は好き嫌いが多くて、だから、小さいのだ。蒿里はちゃんと食べる良い子だろう？　きっと大きくなるぞ」
　先程の仕返しとばかりに、驍宗は楽しそうに言った。
「正頼、悪い子なの？」
「………台輔。じいの事が信じられませんか？　じいは『悪い子』ではありません」
「そうなの。良かった」
　肩を震わせて、声を出さずに驍宗と李斎は笑った。
　もう幾つになったか誰も知らない好々爺に対して『悪い子』『良い子』など言われるなど、目の前にしなければ絶対に信じられないであろう。
「じゃあ。お二人ともおやすみなさい。ぼく、きっと、李斎や驍宗さまよりも大きくなってみせます」
　何とも愛しい子供はそう言って、パタパタと房室を出て行く。勿論、正頼も後を追っていく。
　こんな調子でこの白圭宮は一日を過ぎていく。
　李斎は微笑んで、書きおえた書面を揃えた。
「では、主上。わたくしもそろそろ失礼します」
　驍宗はちらり、と李斎を見やった。
「何だ。もう終わったのか。まだかかると思ったのだが」
　どこかつまらなさそうに言った。
「私ももう直ぐ終わるから暫くそこで待っていろ」
　李斎は大きく目を見開いた。
「……はい？」
　思わず意味のない言葉が口から出た。
「だから、そこでちょっと待っていろ、と言っている」
　書面に目を落とし、驍宗は言う。先程までの泰麒への対応とは全然違う。あくまでもそっけない。
「あの……？」
「鈍いな。もっとはっきり言わないと解からないのか？　この後、私の臥室に寄って行け、と言っている」
「な、な、何をっ……！」
　真っ赤になって李斎はどもった。
　その間に驍宗は自分の仕事を片付け、筆などを仕舞うと、李斎の身体を引き寄せた。
「何をするんです！？　こんな所で！」
「こんな所でなければ良いのか？」
　そう言って李斎の垂らした髪を玩び、唇を奪った。
　驍宗の身体を押し退けようとするが、そんな事は出来なくて。
　でも、素直に受け止められなくて。
　唇が離れると李斎は驍宗を睨んだ。
「そんな怖い顔をするな。蒿里が見たら吃驚するぞ？」
「台輔にこんな顔はしません！　第一、貴方がこんな事をしなければっ、わたしはっ」
「そんなに怒るな。もっとも、そういう顔も中々良いが」
「なっ！　何を言っているんですっ！？」
　驍宗は楽しげに笑うと、李斎の腕を取って歩き出した。
　李斎はこのままついていくのが悔しくて。
　でも、心の片隅でそれを嬉しい、と思う気持ちが確かにあって。
　顔を赤らめながら驍宗の後ろ姿を睨みつけた。

　了

2003.05.18

じじ正頼！
もしかすると、じじ正頼で読んだの、はじめてかも～ｖ
泰麒が苦手なものはやっぱりブロッコリーですか！？　と聞きたくなるｖ　きゃあきゃあｖ

それにしても！　ああｖ　ニヤけてしまう～！！＞＜

驍宗様～ｖｖ　強引に己の道を突っ走り。
長ランとか特攻服とか族旗とか、なんて似合いそうな人なのかしら！！

李斎が美人だと読んでいてわかるのに、仕草というか、反応というか、なんとも可愛くて！！

驍宗が本当に楽しげに笑う、というのも目に浮かぶわけで…………（悶え

ごごごご！　ごちそうさまですーーーー！！！！（叫）

ていうか、その先が一番気になるんだけどーーーー！！！！！

明美さんｖ　本当にありがとうございます～ｖ