浩瀚×陽子／いつみ様

　　　『Beauty of the East』

「では、そのように」
涼やかな声音で冢宰は主から書面を受け取りそのまま傍にいた下官に渡す。
下官は一礼して慌ただしく王の執務室を辞した。
「どこも忙しいようだな」
下官の様子に苦笑して、陽子は浩瀚に椅子をすすめた。
「我が冢宰殿はお忙しいのかな？」
「主上の御手ずからのお茶をいただく時間はございますよ？」
くすり、と顔を見合わせて笑い陽子は茶の用意をしに行った。

最近美味しく入れられるようになった、と主は得意そうに言う。
「鈴の特訓のおかげだ。この前は景麒も誉めてくれたんだ」
茶壺を温め、葉を入れる。
始めの頃のような戸惑うような手付きではない。
葉を入れ終わると熱湯を茶壺に注ぐ。
俯き加減の主の顔は楽しそうだ。
押し迫った赤王朝の祝祭の激務をこなしている疲れが滲んで見えるものの、焦燥はない。
己を飾り立てることに罪悪感を感じていた主は、良い形で朝の一山を越えてから少しずつゆとりができたようだ。
磨かれた爪が滑らかに光る。
茶海に注がれた湯が聞香杯、茶杯と移りそして茶盤に流される。
細い指は決して白魚のような痛みを知らぬ指ではない。
幾多の困難と悲しみを乗り越えた指だ。
蒸らした茶を茶壺から茶海に注ぎ、また聞香杯から茶杯に移される。
差し出された聞香杯を手にとって鼻に近付けると、甘い香が全身を癒すように巡る。
「東方美人ですね」
「すごいな、わかるんだ。わたしも少しは覚えたけれどまだ全然だ。お茶の種類がいろいろあって面白いけど、それぞれ入れ方が違って難しい」
「私もそれほど知っているわけではありませんよ。ただ飲む種類も、出される種類も人によって個性が出るものですからね。人柄と結び付けて覚えると覚えやすいかもしれません」
なるほど、と真面目に頷く主に笑って螢焼きの白い茶杯を手にとる。
香と同じように甘い芳香が広がる。
疲れを癒すお茶――東方美人。
このお茶を選んだ主の心遣いが嬉しい。
お茶請けの南瓜の種を口に運ぶ主も微笑んでいる。
「主上」
ふ、と顔を上げた主が少し目を見開いてそれから頬を薄く染めて俯いた。
可愛らしいお方だと、思う。
浩瀚は手を出して意識して優しい声で呼ぶ。
「主上‥‥」
陽子は浩瀚と机をせわしなく視線を動かして迷いに迷ってから浩瀚を見つめた。
浩瀚がもう一度手を伸ばす。
「昼間‥‥だぞ？」
「けれど今ここにはふたりだけです。ならば今は夜でしょう」
「‥‥冢宰の台詞じゃないな」
浩瀚の手をとって抱き着く。
その確かないのちの重みに浩瀚は安堵して温もりを柔らかく抱き締めた。
「今は夜。私は冢宰ではなく貴女に跪く愚かな男でしかありません」
「‥‥浩瀚は、お茶で酔うのか」
微笑う声に浩瀚は含みをもたせて言う。
「ええ、東方美人に酔ってますよ」
目を瞬かせて陽子はきょとんとし、それから意味を悟って赤くなる。
馬鹿、という慶東国国主の誉め言葉は有能と名高い冢宰の唇に吸い込まれた。

Fin

2003.08.11

いつみちゃんから！

いつみちゃんから！！！！

いつみちゃんからいただいてしまいました！！！！＞＜

えぐえぐ(泣)　うれしい～！！！

目の前の花の匂いに酔う男、浩瀚。もう、何も言うことないッス！！

どこまでも酔いしれてくれ～ｖｖ

絶対に、囁くようなぞくりとする声で。

いつみちゃん、本当にありがとうございました(^-^)/
これからもよろしくお願いいたしますっ！！