延王×陽子／千里様
『楽易』
――待っていてほしい。少しだけ。すぐに終わらせるから。
延王尚隆は非常に機嫌が悪かった。
それというのも、折角彼の愛おしくてならない恋人がこの国に来ているというのに、急な仕事が入ったからだ。
彼は恋人と会う時の常で、仕事は彼女が来る前に張り切って終わらせ、普段文句が止まない臣下の口を閉ざすほどの勤勉さを見せたのだ。
にもかかわらず、よりによって彼女が来ている時に仕事が入った。
（そんなに重要なものならば、陽子が来る前に奏上しておけ！）
それができるなら臣とてそうしていただろう。しかし急務、というものは思いもよらず急に発生するから急務というのだ。
彼女はというと、笑顔で「待ってますね」と言う始末。
彼女の笑顔に支えられて、彼が仕事を急いで、しかも正確に終わらせたことは言うまでもない。
仕事を終わらせれば彼女に会える。
その一念が彼を奮起させたのだった。
「陽子はどこだ？」
急な仕事の知らせを受けて余程慌てていた（というかいらついていた）のか、彼女がどこで待っているか、といったことを聞き損ねてしまった。
それでなくても玄英宮は広いのだ。人一人を探すとなると骨が折れることこの上ない。
しかし……。
（陽子がいるところなど大体の見当はついている）
どこからくるのか、絶対的な自信を持って彼はそう言いきってしまう。
（…それもあの馬鹿が連れまわしていなければ、の話だが…）
馬鹿、とは言うまでもなく彼の麒麟である六太のことだ。六太自身は認めていない字だったとしても、彼は時々面白がって六太のことを彼自ら付けたその字でもって呼ぶ。そして時折彼の目をかいくぐって（つまりは彼が彼女と会えない時も六太だけが）彼女と遊んでいたりするのだ。それを彼が愉快に思うはずがない。
「さて…、まずはあそこの路亭か…」
一つ目の目的地を決めた彼はまっすぐそこへと歩みを進めるのだった。
「陽子…。いるか？」
彼がまず向かったのは、玄英宮の中で彼女が最も気に入っていると言っていた庭院にある路亭である。今までも玄英宮の中で彼女を見失った時、ここに来れば見つけられることが多かったのだ。
そして此度も。
彼からは丁度死角になっていた榻に紅い、彼女だけが持つ美しい色が見えた。
「陽子」
今回も難なく彼女を見つけられたことに内心笑みを浮かべながら、彼は彼女の名を呼ぶ。
しかし返るはずの彼女の微笑みと声が返ってこない。
訝しげに彼は彼女の正面へ回り、その訳を理解した。
（ここは心地良いからな…）
彼の顔に微笑ましさを映したような笑みが浮かぶ。
彼女はここで気持ち良さそうに眠っていた。
す―す―と健やかな寝息を立てている様は、彼女の外見上の年齢よりも少し幼く見える。
陽の光に包まれて眠る少女。
その姿は、彼に彼女の名前を思い起こさせた。
美しい風景。
ずっとそのままにしておきたいような、そんな衝動が沸き起こったとしても仕方のないことだろう。それほどまでに今の彼女は陽とこの庭院に馴染んでいた。
だが折角仕事を早く終わらせてきたのだ。彼女のために。
確かに彼女の寝顔をここでゆっくりと堪能するのもいいが、やはり彼女の瞳と声が欲しい。
そう思い至った彼はしかし素直に彼女に声を掛けて起こそうとはしなかった。
彼の麒麟や臣下が見たら「ま〜たなんかろくでもないこと考えてるな…」と思われても仕方がないような含み笑いを零すと、彼は横向きに榻に座っている彼女の隣に腰掛ける。そうすると彼女は彼に背を向けて寝ている状態である。
「俺が来ても目覚めないお前が悪いのだからな」
そんな責任転嫁をし、彼は目の前にある彼女の美しい炎を思わせる髪を一つに纏めて右手で持ち、健康的な項を露にした。そしてちゅっと軽い音を立ててそこに口付ける。
一回目は触れるだけ。
二回目は少し強く。
それから三回目に彼女の項に紅い華を散らせた。
その跡を見て、彼は至極満足そうに一つ頷く。
「……ん…ぅ…」
彼女から声が漏れる。
だがまだ目覚めは訪れていない。
彼女はまた心地良さそうな寝息を重ねている。
だから。
彼の悪戯はまだ続くのだった。
既に手に馴染んだ彼女の肌の感触。
すべらかであたたかい、彼の大切な女性。
その肌を大事に、そして大胆に彼は暴いていく。
最初は項に。
次は少し彼女の襟元を広げて、垣間見える鎖骨に。
彼の指と唇は甘く香る彼女の肌に紅いしるしをつけながら心ゆくまで味わった。
しかし未だに目覚めようとはしない彼女に、流石に苦笑してしまう。
「…まさか金波宮でもそんなに無防備なのではないだろうな…」
彼女はこれでも武断の王のはずなのだが。
それとも。
期待してもよいのだろうか。
彼、だからこそ。
彼の気配だからこそ、彼女はこんなにも安心しているのだと。
彼は甘い期待に心揺さぶられながら、確実に彼女を起こすべく行動を始めた。
今は背を向けている彼女の腰に手をやり、力を持って彼女を彼の方に向かせる。
「……む〜〜……」
無理やり体勢を変えられたことにより、彼女の眉が顰められるがそれでも眠りの世界は彼女を誘ったまま。
滅多に見られない彼女の少女らしい様子に、彼は先ほどまでとは違う優しい微笑みを湛えて彼女の額に愛おしそうに口付けた。
大切な存在に与える優しい口付けは、彼女の額や頬など顔中に落とされる。
そして最後に甘く柔らかい彼女の唇に、彼は己の唇を押し当てた。
大事に、大事に。
彼は彼女の唇を味わう。
だが次第に彼は彼女の唇に酔わされる。
口付けていると、彼の脳裏から彼女が寝ているということが消え去った。
起きている時でさえ、息継ぎがあまり上手でない彼女。
その彼女が寝ているにもかかわらず、彼は口付けを深くしていった。
甘い唇。
甘露を纏わせる舌。
真珠のような歯。
感じやすい口内。
そういった全てが彼を彼女の虜にさせる。
「……ん……っあっ……」
口付けが長くなるにつれて、彼女が息苦しそうにもがく。
自分の呼吸を阻んでいるものを退かそうと、彼女の手が無意識に彼の胸を押した。
しかしその程度の抵抗では彼は怯まない。
寧ろ、彼女のその行動に煽られたようにさらに彼は彼女の口内に侵入する。
ここで。
やっと彼女の瞳がぱちっと開いた。
そして彼女の唇を塞いでいる人物――彼を見開いた目で確認した。
「っん〜〜〜〜！！！」
目を覚ました彼女は酸素を求めて、今度はぽかぽかと少し強めに彼の胸を叩く。
彼女の目を覚ます、という（半ば忘れかけていた）当初の目的を思い出した彼は、ようやく彼女を解放した。
「っぷは〜〜〜〜〜！」
盛大に酸素を吸う彼女を、彼は楽しそうに見つめる。
「もうっ！！何するんですか！？」
「何…とは心外だな。口付けだ」
そんなことは彼女にも分かる。そんなことが聞きたいのではない。
大げさに眉を顰める彼女に彼は楽しそうに続けた。
「折角仕事を早く終わらせたのに、肝心のお前が眠っていたのでな。俺としては早くお目覚めしていただこうと思ったまでだ」
「……それでなんで口付ける必要があるんですか…。口で起こせばいいのに」
「口で起こしたではないか」
「声を掛けて！！起こしてくれればいいのに！！ってことです！！！」
少々大声で説明した後、呆れたように大きな溜息を吐いた彼女は、その瞬間落とした視線の先に見たものにぎょっとした。
「ええええ延王！！！」
「なんだ？」
何故この男はこんなに飄々としているのだろう。
そんな疑問がぐるぐると頭の中を駆け巡ったまま、彼女は彼に問う。
「何故私の服が肌蹴てるんですか？そ…それにこんな、あ、跡まで…」
後者の方は口に出すのが恥ずかしかったのだろう、顔を彼女の髪色に染めた。
必死に紡いだ彼女の問いだったが、彼はにっこりと笑い、とんでもないことを言い出す。
「気にするな。続きは今からやる」
「は？？？」
そうして彼は向かい合って座っていた彼女の腰を再び浚い、己の方にしっかりと抱き寄せてから、まだ状況についていけてない彼女の唇をまた塞いでしまった。
「っや！……まっ……て」
「待たない。もう何にも邪魔されたくないからな」
蕩けそうな意識の中での懇願もあっさりと拒否され、彼女の言葉は彼の唇に吸い取られる。
激しい口付けを交わし、それから彼の唇は肌蹴られた彼女の胸元に降りていく。
彼の手はその間、彼女に優しく、時に激しく触れるのに余念がない。
「あっ…」
知らず知らず零れてしまう声を抑えようと、彼女が手で自身の口を塞いだ。
しかし彼は彼女の羞恥心に構うことなく、彼女に彼の所有印を刻んでいく。
「あっ！やぁ……ああっ…」
人気のないぽつんと佇んだ路亭に少女のあえかな声が響く。
その声の艶やかさに男の笑みは濃くなる。
少女の身体に紅い華を散らし、また少女を美しく花開かせながら、男は自身の想いを少女に伝え続けた。
「………動けない」
「抱いていってやろうか？」
「ばかっ！……反省の色がないんだから」
寒くないようにと男の上着を肩に掛けられた少女は、男の腕に大切そうに抱かれている。
口ではなんと言っていようが、少女は男を心から信頼しているかのように男の胸にその身体を預けたままだ。
そんな少女の態度が男の心を和ませ、幸せにする。
少女もまた、幸せそうに刻まれた男の微笑みに幸せを感じるのだ。
そうして二人は暫く、そうやって互いのぬくもりを感じながら時を過ごした。
終
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| 2004.07.02 |
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千里さんのサイトで５万HITをゲットｖ
リクエスト「延陽で延王が積極的にイチャイチャ」をお願いしたのでしたｖ
陽子の可愛さに悶絶……！
笑顔で「待っていますね」ですでに悶絶ですから（笑） ←初っ端からか。
くそー！ 可愛いぜ！！
三郎じゃなくてもあんなことやこんなことやいろいろとしたくなりますわーーｖ
陽子の喘ぎがまた悶絶もので！
きゃあきゃあ「かわいいかわいい」と叫びながら
じたばた右往左往したい心意気です。
三郎も犬並みの嗅覚で陽子を見つけ出すし（笑） いや狼並みですか？
ああもう！ 陽子ラブな三郎もかわいいよう！
かっこいいのにかわいい男に弱い私はまたも悶絶。
ツボすぎる……！
ふぃ〜（汗拭いて）
危険な小説でした。
とりあえず。
でかしたオレ！！
こんなリクエストをした自分を褒めたいです！
幸せ〜ｖ
千里さん、本当にありがとうございました！
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