六太×陽子
『きらきら』
陽子って何の花が好きだ？
延台輔にそう聞かれたから、私は「ひまわり」と答えた。
「なら、ひまわりを見に行こう」
彼が笑って手を伸ばしてきたので――。
私も微笑み、彼に向かって手を伸ばした。
指が触れると、身体のわりには大きな手が力強く握り返してくる。
ああ……と思った。
私は眩しくて目を細める。
太陽の下。
彼の金色の髪は、本当にひまわりのよう――。
「延台輔って、ひまわりみたい」
最初にそう言ったのは鈴だった。
「ひまわり？」
祥瓊が首をかしげた。太師の官邸、その縁側に私と祥瓊、鈴の三人で座り、洗濯物を畳んでいる。私たち三人の下着はもちろん、虎嘯や遠甫の下着なども混ざっていた。
王宮とは思えないほど、のどかな昼下がり。
「ひまわりってなに？」
この世界にないのか、それとも北国である芳国にはないのか、きょとんとしている祥瓊に鈴は笑った。
「黄色い大きな花なの」
「へえ」
祥瓊は納得して頷く。
鈴がニマニマと笑った。
「ひまわりってね。ずーっと太陽を見ているのよ」
祥瓊にも意味がわかったらしい。
「なるほどね〜」
ふたりしてくすくすと笑う。
私は顔を真っ赤にして二人を睨んだけれど、彼女たちがそれで怯むはずもなく。
祥瓊は敷布を畳みながら微笑んだ。
「ひまわりは太陽が好きで好きで仕方がないってことね」
「そ。太陽が好きで好きでずっと見ているの。――ね？ 延台輔みたいでしょう？」
「見てみたいわ、ひまわり！ ねえ陽子、今度、苗をもらってきてよ」
「う、うん……」
こくり、とうなずいた私に、鈴が「あら」と笑う。
「知らないの？ だめよだめ」
「なにが？」
鈴が手を止めた。
「ひまわりはねえ……」
ひまわりは、植え替えることが出来ないのだという。
「陽子、どうした？」
延台輔の笑みが眩しい。
私は軽く笑い、首を横に振った。
「何でもありません」
太陽に燃え尽き、芽が出たその場所でしか育つことが出来ない花。
「ひまわりの種っておいしいですよね」
私が言うと、延台輔がくっくと笑った。
「尚隆の酒のつまみになってる。楽俊にやったら喜びそうだと思わねえ？」
「まんまじゃないですか」
楽俊が頬にひまわりの種を詰め込む姿を想像して笑ってしまう。
延台輔が握った手を揺らした。
「また、種が出来るころになったら来よう――」
「ふたりで？」
「ふたりで。――祥瓊がほしがっていたんだろ？ おみやげに持っていけよ」
「はい」
どうか、このまま枯れてしまわないで――。
彼の輝く髪を見ながら、心から願った。
了
【六陽好きに20のお題 02】
2004.01.21