ナル×まどか／きりや、丈田
『チョコレート』
きりや 2002/2/8 (Fri.) 01:43:57
にこりと笑ってまどかはソレを僕の目の前に差し出す。
――勘弁してくれ。
それが伝わったのか、まどかはなおもそのままの姿勢で言い放った。
「日本式のヴァレンタインよ。親しい人にチョコを贈るの」
「……だからと言って、なぜ僕に？」
「感謝の気持ちｖ」
彼女が笑顔を崩さないのはいつものこと。
「食べさせる相手は僕でなくてもいいだろう？」
食べたくなくてそう言ってみると、
「あら、ジーンもリンも食べてくれたわよ」
まさか、これでか？
「もちろんじゃないのｖ」
ジーンはともかく、リンもかと思うとやりきれない。彼はおそらくこの笑顔には抵抗しきれなかったのだろう。
多分、それは僕も同じで。
溜息が出てしまう。
「食べてくれるんでしょ？」
……まどかは相変わらずだ。
最強の笑顔で。
周りに他に人がいないのが、僕の救いだった。
丈田 2002/2/8 (Fri.) 05:38:17
「ねえ、ど？」
「……」
どう？ とまどかに聞かれた答えは迷うことなく「硬い」だろう。まどかが差し出したチョコにかぶりついたまま、僕は恥ずかしさに顔が赤くなるのがわかった。味云々という前に、チョコレートを口にしたまま噛み切れずにいた。
パリン！ と大きな音を響かせて、割れた欠片が飛び散った。
「あっ」
まどかが短い悲鳴をあげた。
「やだ、本、本！」
散らばったチョコレートよりも、僕が広げていた本にチョコレートが付着することに慌てた彼女は、僕の手から本を奪い取ると、逆さにしてチョコレートの粉を振り落としている。
僕は口に入ったチョコレートを舌で転がしながら、まどかを横目に、机に広がったチョコレートをすべて拾って口に運んだ。このままではまどか自身が食べてしまうか、そのままゴミ箱行きのような気がしたから。
まあ、無理に食べる必要はなかったと思ったけれど。硬いチョコレートは市販されたもののようには思えない。おそらくまどかの手作りだ。
ふと、僕の方を見たまどかが、ちょっとうれしそうに笑ったのが分かった。
くそ、と僕は思う。
口の中のチョコレートが溶けるのには時間がかかって、僕はそのまま口の中で転がしながら本を再び読み始めた。
まどかは椅子に座ってなにをするわけでもなく、ニコニコしながら僕を見ている。たまに部屋の中を見回したりしながら。
――何を考えているんだか。
まどかがちょうど窓の外を見ていたので。
「ごちそうさま」
ぼそ、と聞こえないようにつぶやいたのだが、まどかは驚いたようにこっちを見た。
――くそ。
思わず目をそらしてしまう。まどかといると調子が狂う。
「ありがとう」
うれしそうな声。
いつものように目を細めて大きく笑っているのだろうか。
「ありがとう、ナル」
リズムにも嬉しそうな響きが混ざる。ふふふ、とも、えへへ、ともつかない笑いを漏らして、まどかが子供のように足を揺らした。
「ジーンは硬いって言ってたわよ？」
「……いや、別に」
市販されているチョコレート自体あまり食べないので、比べようもない。
「正直に言ってみなさいな」
「……硬かった」
まどかはまた嬉しそうに笑った。身を乗り出して机に両肘をつくと、手のひらに顎を乗せる。
「甘かった？」
「味見したんだろう？」
「毒見？」
「……」
「ジーンとリンがしてくれた。で、感想が
『硬いね』
ですって。ね、甘かった？」
「さあ」
「さあ！？」
まどかは怒ったような声をあげたが、顔は溜め息。
「僕に聞くのが間違っている」
「いいの。ナルに聞きたかったのよ」
「なら」
僕は身をかがめた。
上向きになっているまどかの唇に、自分のそれを重ねる。
びく、となったまどかの頭を押えた。そのまま唇を開いて、舌を差し入れる。
「ナ……ナルっ」
吐息が混ざって。
僕は顔を離した。
真っ赤になったまどかが、口を押えて怒ったように僕を睨みつけてくる。
「甘かった？」
僕がきく。
「なにが！」
「聞いただろう？ チョコレートは甘かったかって」
「だ！ だからって！！」
怒り震えていた目が、困惑に変わって僕を睨む。
「――も、もう！」
僕は本に視線を戻して、くすりと笑った。
「ごちそうさま」
「しらない！」
だが、まどかは立ち去らない。
「本当に……もう、大人をすぐにからかって」
「まどかだって僕をすぐにからかう」
「わたしはいいのよ、わたしは」
ぶつぶつとまどかがつぶやいている。僕は笑いをこらえて、肩を震わせた。それに気づいて、まどかが僕を睨みつけてくる。
「覚えてなさいよ」
僕は笑った。
了
【レス小説】
2002.03.03