ナル×麻衣／きりや、丈田
『誕生日』
きりや2002/7/3 (Wed.) 01:11:57
今日は麻衣の誕生日。
誕生日だからといって、珍しくも男のくれた花を一輪、花瓶から抜いた。
シーツからそのままのかっこうで抜け出す。降り続く雨のせいで、今夜も少し冷えるようだった。それでも上に何か羽織ろうとは麻衣の頭には浮かばない。寒いのなら眠り続ける男の隣に戻ればよいのだ。
麻衣は手にした花をためつすがめつ眺めた。なんでもない花のはずなのに、男がくれたというだけで、それは彼女にとっては宝石よりも輝かしい。
「ふふ」
誇らしくて、嬉しくて、麻衣は小さく笑う。くるくると茎を回して、そうして花びらをそっと口元に寄せる。あまり香りのない花だが、それでも麻衣はその微かな香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
そうしてまた微笑むと、左耳に触れる手があった。
振り返ると寝ていたはずの男が手を伸ばして、麻衣の髪をいじっていた。その愛しそうに見つめる視線に、手元の花に。
麻衣は嬉しさを面に表して、花ごと男の胸に飛び込む。
「好きだよ」
そっと抱きついた男の耳元で囁くと、返事とばかりにきつく抱きしめられた。
丈田2002/7/3 (Wed.) 22:53:30
「ナル……」
彼がどんな気持ちで――どんな状況で――どんな風に花を買ったんだろうと思う。
花束よりも、彼が多くの中から選んだたった一輪の花がこんなにも嬉しい。
だって、この花は私だ。たくさん咲く花の中で、彼はこの花を選んでくれた。それがこんなにも嬉しい。
彼と肌を重ね、彼の手によって花開く私は、きっと、どんどん綺麗になっていく。水を与えられるように、彼に愛情を与えられる。
私に何ができるんだろう。そんな問いに、彼はいつもの私でいいと言う。その、彼の口元に浮かぶ、目元に浮かぶ微かな笑みが胸を温かくする。
嬉しくて、嬉しくて、どんどん彼にあらゆるものを与えたくなってしまう。
私が与えることのできる心のすべて。怒りも悲しみも喜びも優しさも暖かさもすべてを彼にあげたい。
彼の、私の髪に触れる指が好きだ。
彼の、私の頬に触れる唇が好きだ。
彼の、私の心に触れる思いが好き。
「大好き」って言葉を何度でも言いたいの。だって、それ以上に彼に「嫌い」って言葉を口にしてしまうから。
だって、彼は本当に無愛想で無神経で無遠慮で鬼畜で強引で唯我独尊でナルシストでブラコンで、頭にきてしまうことの方がずっと多くて。だから、好きって思ったときにはたくさん彼に伝えたい。
本当は、どんなナルも好きだよと。頭に来るときは絶対に口にしないから。
だから、嬉しいときには素直に伝えたい。
「大好きだよ、ナル」
彼に出会ったことが嬉しい。
彼のそばにいることが嬉しい。
彼と歩めることが嬉しい。
だから、ずっとずっと離さないでね。
ケンカをしても、口論しても、ずっとそばにいてね。
彼の中に咲く、たった一つの花でいたいから。
私は彼に笑って声を出さずに言った。
だーいすき！！
了
【レス小説】
2002.07.31