アスラン×カガリ
『ゆびわ』
「お前、そんなことまでしてるのか？」
「カガリ！？」
頭上から聞こえた少女の声に、慌てて振り仰ぐ。クサナギにいるはずのカガリが、なぜエターナルの――しかもＭＳ格納庫にいるのか。そんな当たり前の疑問を今更口にしてもしかたがないのだけれど。
「なんでこんなところに」
「エターナルはよっぽど人が足りないんだな。パイロットまで整備に回すなんて」
カガリはにっこりと笑った。
「メカニックを連れてきたんだ。必要だろ？」
「そりゃあ……」
クサナギにはオーブの技術者が集められている。
カガリは苦笑して、小さく舌を出した。
「実はみんな、ミーティアを見たいっていうのが正直なところ。いじりたくて仕方がないんだ」
ミーティアはジャスティスとフリーダム用の追加武装だ。エターナルがプラントを脱出してきたときに一緒に持ってきた……というか、盗んできたというか。オーブの技術者たちが興味を持つのも仕方がない。正直、助かる――。
「だからってお前自らが来るか？」
「司令官同士の大切な話し合いがあるんだよ！」
と言いながら、なぜブリッジではなくドックにいるのか。
カガリはアゴをしゃくる。
「早く続けろよ。まだ終わってないんだろ」
「ああ……」
「なにか手伝えるか？」
「じゃあ……これ持ってて」
俺はいくつかのボルトとナットを手渡す。カガリの瞳が輝いた。
「任せろ！」
任せろ……って胸を張って言うほどのことではないけれど。俺は苦笑を漏らして、スパナを握った。
俺はカガリと何かを話すわけでもなく、ただ黙々と整備を続ける。ふとカガリを見れば、足をぶらぶらと揺らして楽しそうに俺を見ていた。……何か、話したほうがいいのだろうか。
俺の視線に気づいたカガリがボルトを揺らした。
「使うのか？」
「いや、それは交換したやつだから使わない」
「なーんだ」
つまらなそうにカガリが呟く。
俺は立ち上がった。
「カガリ、ここにいてもつまらなくないか？」
「は？ なんで」
きょとんとした顔でカガリが瞬くので、俺の方が慌ててしまった。
「あ……いや、話したいことがあるなら話してていいぞ？」
「別に話したいことはないけど……。それに、うるさくしていたら整備の邪魔になるだろ？ ――あ！ ああ、そうか、そうだよな、気がきかなくてごめん！ もう帰る」
カガリが慌てて立ち上がった。
「カガリ？」
「邪魔してごめん。――はい」
ボルトとナットを手渡された。
「じゃあな」
カガリは身軽に作業台を降りていく。思わずその背中を見送ってしまい、「あ」――と、俺は自分の鈍さに舌打ちした。
「カガリ」
慌てて追って、その腕をつかんだ。
「ラクスに用があるのか？」
「あ……うん」
「今すぐ？」
「……じゃない」
「キラに用がある？」
カガリは首を横に振った。俺は笑う。
「だったら、もう少しここにいろ」
「邪魔じゃ……」
「ない。迷惑でもない」
俺ははっきりと断言して、カガリの腕を引く。
「ちょうど、道具持ちが必要だったんだ」
「道具持ちかよ！」
いつものカガリに戻っていてホッとする。俺はニヤリと笑った。
「さっき、任せろ！って言ってなかったか？」
「……言った」
カガリはぷくりと頬を膨らませた。
それから３０分後、整備を終えた俺がカガリのところに行くと、彼女は自分の左の中指を思いっきり引っ張っていた。
「カガリ……？ 何してるんだ」
「あ……」
カガリは慌てて左手を背中に隠す。
「なんでもない」
「なんでもなくないだろ」
俺が右手を差し出すと、カガリはそろそろと左手を出した。犬だったら「おかわり」状態となったカガリのそこには、太い鉄の指輪がにぶく光っていた。
中指にナットがハマッていたのだ。
「カガリ……」
思わず笑ってしまう。
「――笑うな！」
「指が赤くなってるじゃないか。無理して抜こうとするからだ」
「このまま抜けなくなったら恥ずかしいだろ」
カガリの頬が赤く染まっている。俺はカガリの指をつかんで軽く揺らした。
「石鹸をつければすぐに抜けるよ。それにしても……」
本当におかしくて笑ってしまう。どうしてこう、こいつは……。
「アスラン！」
「すまない……いや、本当に」
女の子なんだな、と思った。男だったらナットを指にはめてみようとは思わない。
「なんでこんなに無理やり入れるんだよ」
「無理やりじゃない！ 薬指はピッタリだったんだ。中指も入るかなって……」
「なるほどね」
俺は溜め息をついた。
「今度からナットなんてはめるなよ？ 指輪だったら……俺があげるから」
「……」
カガリはチラリと俺を見上げて、こくり、と頷く。消えるように「ありがと……」と呟いた。
意味がちゃんとわかっているんだろうか。
「そうだよな！」
カガリが顔を上げて笑った。
「みんなで生き残って、たくさん買い物をしよう！」
わかってない。
俺は苦笑しながら、一応、ナットのサイズを頭に記憶した。
了
【カガリストに22のお題 14】
2003/12/15