アスラン×カガリ
『歌』
１８時に帰って来ると言ったカガリが戻ってこない。キラの家に電話をかけると、繋がったとたんに笑い声が響いた。キラが画面の中で涙が出るくらいに笑っている。
「アスラン……！ まだ１分もすぎてないよ？」
「ということは、まだいるんだな」
俺は溜め息をついた。カガリが安全であることに安堵する一方、キラに笑われることが腹立たしい。俺だってカガリがラクスのように大人しく守られていてくれるような人だったらここまで心配はしない。
「６時にここにいるはずのお前が、何でそこにいるんだ？」
「ちょっと、カガリを送れなくなっちゃってさ。今、連絡しようと思ったとこだったんだ」
キラが苦笑した。
「忙しいのはわかっているんだけど、迎えに来れる？」
「何かあったのか？」
「隣の奥さんが倒れちゃって。母さんは病院に付き添って、今、子供を預かっているんだ」
キラが画面から退くと、奥で金色の髪が揺れた。カガリが現れるのかと思ったら、１歳になったばかりだろうか、小さな子供の顔がアップで映し出された。それはすぐにズームアウトして、嬉しそうに笑うカガリが顔を覗かせる。
「生まれちゃった」
「ばか」
くすりと笑った。
「今から迎えに行く」
「うん」
ヤマト家の前に車を止めると、キラが玄関の扉を開けて姿を見せた。手を軽く上げると、そのまま口に人差し指を立てる。俺は静かに車の扉を閉めると、頷いてキラのあとに続いた。
部屋の中から、ラクスの歌が聞こえてきた。
――ちがう。
ラクスの歌を、カガリが口ずさんでいるのだ。まるで子守唄のように。
国歌と追悼歌以外で俺が初めて聞く、カガリの歌声だった。
居間に入ると、カガリが顔を上げて口を閉ざした。途端に、カガリの腕の中にいた子供がぐずりだす。カガリは子供を抱きなおして、その背中をゆっくりと叩いた。
「よしよし」
「歌えば？」
カガリの視線を受けて、俺は目を細めた。
「子守唄、なんだろ？」
「……」
カガリは何も答えず、ただ、再びうつむくと、小さな声で歌いはじめた。
了
【カガリストに22のお題 17】
2003/12/15