クルーゼ×フレイ
『イト』
小さなくしゃみに目を覚ました。
腕の中で、柔らかい身体が小さく震えている。赤い髪に豊かな身体つきの少女は、その身に何もまとっていなかった。
「フレイ」
耳元でささやくと、ビクリと肩が震えた。
父親と同じ声を持つ者に犯されるというのはどういう気持ちなのだろう。彼女がそのことを考えまいと必死になっているのがわかる。脱げと言えば素直に脱ぎ、着ろと言えば素直に着る。
「もっとこちらへくるといい」
彼女の砂色の瞳がゆっくりと開いて、困惑気味に見上げてくる。私は、彼女を安心させるように笑い、柔らかい髪に指を差し込んで優しく撫でると、そのまま彼女の頭を自分の胸に引き寄せた。
「いい匂いだ」
彼女の髪からリンスの匂いがする。使っているのは私と同じものだが、自分ではわからない。
だが、その言葉に少女の身体が揺れた。
ああ――。
彼女の反応はなんてわかりやすいのだろう。彼女の父親が、同じ言葉を口にしたことがあるのだ。
母親はなく、父親ひとりの手で育てられたという彼女は、聞けば失笑が漏れるほど父親を慕っていた。――父親を慕う、という気持ちが私にはわからない。理解できない感情が苛立ちに変わって、無意識のうちに彼女の髪を強く握ってしまう。
「……っ！」
短い悲鳴が漏れた。
「ああ……すまない、フレイ」
手を緩め、彼女の額に口づけた。
その父親を殺した男が私であり、その男に抱かれているということを彼女自身がわかっていないのが不思議だった。わざわざそれを教える愚を冒すつもりはないが、彼女の怒りは、父親を殺した者ではなく、父親を守ってくれなかった者に対しての方が強い。だが、そのことで傷ついてもいる。
愚かな娘だ。
ふと、指に引っかかりを覚えて目を向けると、右の小指に赤い髪が巻きついていた。
「――」
先ほど握ったときに引き抜いてしまったのだろう。それはまるで赤い糸のようで――。
小指に結ばれた赤い糸は、運命の相手につながっているという。
視線を彼女に向け、一瞬にしろ驚いたのは、彼女の左の小指にも同じように赤い糸が絡みついていたからだった。
おかしくなって、声に出して笑いが漏れてしまう。
少女が問うような目をして私を見た。
「なんでもないよ……フレイ」
彼女の頬から顎にかけて、輪郭を楽しむようにゆっくりと撫でた。
「君の運命の相手は誰なのだろう……ねえ？」
君も、その相手も、この世界も。
すべて壊してしまうけれど。
【クルフレ好きさんに11のお題 02】
2005.03.15