クルーゼ×フレイ
『気まぐれ』
ザフトの地球侵攻作戦オペレーション・スピットブレイクの最中に、私と彼女はグランドホロー内部で出会った。
アラスカにある地球連合軍の重要拠点「JOSH−A」――その深部に侵入した私の目の前に彼女は現れた。
――まさに「現れた」という表現が正しい。
赤い髪に砂色の瞳。
年は十五歳くらいか、私が撃ち殺した兵士が落とした銃を拾って、震えながら私に銃口を向けている。
沈む船から逃げ出した――すでに人のいない施設内の、なぜこのような場所に十代半ばの少女がいるのか。ザフト兵の登場に彼女も驚いただろうが、それは私も同様だった。彼女との違いは、そこに余裕があるか、ないかだけ。
少女が銃を構える仕草は、まるでなっていなかった。肩から震え、銃口が定まっていない。敵のザフト兵を前に怯えているだけでなく、初めて銃を持ったのだとすぐに分かった。当然、弾は撃ちつくされていることにも気づいていない。――そのことをわざわざ教えてやりたくなってしまうのは私の悪い癖だろう。
思わず自嘲的な笑いが漏れた。
「おやおや、これはこれは……」
「――！」
恐怖に震える瞳が、驚きに見開いた。そして、次の瞬間、返ってきたのは意外な言葉だった。
パパ？ と。
正直、意表をつかれた。私は仮面の下で眉を上げた。
少女は怯えた表情の下に、探るような瞳でまっすぐに私を見つめてくる。まるで仮面の奥の素顔を探るかのように。
敵に救いを求めるものとはちがった、なぜと問うような困惑した表情だった。
おそらく――。
そのとき、私たちはお互いに相手へ興味を持ったのだ。
「パパが恋しいのかね？」
迷子の幼児に問うように私は笑った。自分で口にしながら、パパという言葉に笑いがこみ上げてくる。まるで飯事のようじゃないか。
もし彼女が救いを求めたり悲鳴を上げるような気配を微塵でもさせていれば、私は迷わずに彼女を撃っただろう。だが、少女はただ呆然とした表情で銃を下げたのだった。
理由は分からないが、彼女は自問し続けている。
私は声を出して笑った。――楽しい、と思ってしまったのだった。
ここは地球軍が味方の囮共々、敵であるザフトを一網打尽にするために廃棄された施設だ。その深部に彼女のように幼い新米兵がいることがそもそもおかしいのだが、まさか彼女が本当に迷子であったとは想像しようもなく――。
ただ、ここにいる以上、ムウ・ラ・フラガ同様、この少女も地球軍にとっては不用の烙印を押されたということだけは確かだった。
いずれ死ぬ命。
――ならば。
「――っ！？」
彼女の前に滑り込んで鳩尾に拳を叩き込むと、少女は目を大きく見開いて苦悶の表情を浮かべた。声にならない息が漏れ、最初に足から力が抜けてすぐに上体が傾く。
ならば、その命、誰が拾おうと――。
私は少女の身体をすばやく担ぎ上げた。
――かまわないだろう？
少女の身体から、戦場とは遠くかけ離れた匂いがした。
【クルフレ好きさんに11のお題 01】
2005.07.11