アスラン×カガリ
『スマイル』
アークエンジェルのモビルスーツデッキに、フリーダムの姿を見つけて俺は溜め息をついた。
やっと見つけた、と。
すでに連絡は受けていたのだろうが、オレンジ色のツナギを着た整備士長が腰に手を当てながら驚いたように機体を見上げてくる。
「おう！ なんだなんだ！ ジャスティスまで」
「すみません」
俺はシートベルトを外してコックピットから顔を出した。
「カガリは来ていますか」
「ああ、オーブの嬢ちゃんなら、さっき坊主と一緒に来てたぜ」
首にタオルを巻いた男は、親指で行き先を示す。
「フリーダムは輸送機じゃねえんだけどなあ」
俺は軽く微笑しながら礼を返して、溜め息をついた。いつ何時戦闘が起こるかわからないため、キラや俺は戦艦を移動する際もモビルスーツで動かざるをえないのだ。
「ったく」
あいつは。
ひとつどころにいたためしがない。
オーブの指揮官であるはずのおてんば姫は、まるで下級士官のようにクサナギ艦内を雑用で動き回っていた。クサナギだけならまだいいが、自ら小型艇を操縦してエターナルやアークエンジェルを行ったり来たりするからタチが悪い。今日のように、モビルスーツのコックピットに乗り込んできて移動することも多々あった。そんな彼女を探してうろつく俺も俺だけれど。
なぜかみんなが俺にカガリの行方を聞いてくるから、こちらとしても気になってしまうわけで。
「それじゃあ、知らないのは私だけかよっ」
ブリッジの扉を開ければ、元気な声が響いた。
キラは通信機器のメンテナンスをしていた。入ってきた俺に気づいて目を細める。
入り口に背を向ける形で、ブリッジのクルーと話しているカガリの姿に、思わず溜め息が漏れた。
「カガリ、シモンズさんが探していたぞ」
「アスラン！？」
驚いたように振り返った少女は、俺を見ると床を蹴った。
「どうして、ここに」
「それは俺のセリフだ」
半無重力の中を飛んでくる少女の腕を取った。
「おまえなあ、どこかに行くなら声をかけてから行けって」
俺に、とは言わないが。せめてキサカさんとか。
「アスラン」
「なに」
「笑え！」
「……」
カガリが睨みつけてくる。
「は？」
俺は眉をひそめた。
会って第一声が笑えって……。いきなりなんだそれは。というか、わけがわからない。
「早く、笑えっ」
カガリは真剣な顔で睨みつけてくる。
「いきなり笑えって言われても、笑えないって」
くすりと笑えば、カガリはむすっと頬を膨らませた。
「もっと嬉しそうに笑え」
そんなリクエストまで付けてくる。以前から突拍子もないことを突然言い出す奴だったが。
「どうしたんだ？ いきなり笑えって」
ブリッジのクルーが俺たちの会話を聞いているのがわかる。カガリもそれに気づいたのか、声をひそめた。
「みんな、アスランがよく笑うって言うんだ。だから、ここでも聞いたらそうだって。でも、私は見てない！」
俺は眉をひそめた。みんな、というのはＭ１アストレイの三人娘のことだろうか。
「俺が？」
そんなに笑っている？
俺は困って、カガリの頭に手を置く。
「そんなこと初めて言われたけど」
キラと殺しあうことがなくなって、とりあえずだが、いま自分のやるべきことが定まって、気が緩んでいるのだろうか。
「私だけ見てないなんて、ずるくないか！？」
「……別にずるくはないと思うが」
「私だって見たいのに！」
だから笑え、とカガリは言った。本当に無茶苦茶だ、こいつは。
思わず破顔してしまう。
――ああ、なるほど。
「じゃあ、カガリも笑ったら俺も笑うよ」
「なんだそれは！」
「だって、俺だけ笑ったらずるいと思わないか？」
「思わん！ 早く笑えって！」
「無茶言うな」
俺は苦笑した。そんなに嬉しそうに笑っているのだろうか。
カガリはいつ気づくのだろう。
俺が笑うのは、彼女に対しているときだけということに。
了
【カガリストに22のお題 01】
2005/04/24