ギャグ
『ロンと秘密』
「ホーホー」
窓から、ふらふらと飛んでくる小さなフクロウの姿が見えた。
「おチビさん。どこに行っていたんだい？」
窓を開けると、よろよろと僕の腕の中に降り立った。
シリウス・ブラックからの贈り物だ。
大切な大切な僕のフクロウ。
大きくなるかと思っていたが、夏休みが開けた今もチビはチビのまんまだった。
「お前はいつもどこかに行くね」
どこにいっているんだ？ 無言で聞くが、当然、チビが答えられるはずがない。
ちょっと重い身体を動かして、僕の手の中で丸くなった。
「恋人に会いに行っているのかな」
それとも、シリウスに？
飼い主である自分がシリウスに渡す物がないのだ。それはないだろう。
最初にチビを使ったのがシリウスだとしても、今は立派な僕の伝書フクロウだ。
でも。
僕がそのことに気づいたのは、ちょっとした偶然からだった。
カシャ。
そんな音がたびたびすることに気づいたのだ。
それも、僕の親友ハリー・ポッターがいるときに限って。
いや。正確には、ハリーが何かをしているときには必ず。
カシャ・カシャ・カシャ
まるでカメラのシャッターを切るような、そんな音だった。
そして、その音は、僕の大切な大切なチビからするのだ。
「……」
僕はすごく不安になった。
チビに手を伸ばし、その身体をつかむ。
腹を軽く押した。
「ホーホー」
何？ 何？ というふうにチビが鳴く。
硬い。
チビの腹が硬かった。
正確には、硬い物が入っている。
「メカ……！？」
メカフクロウなのか！？
いや、彼がちゃんとした生きた動物であるのは確かだ。でも、身体の中に何かが仕込まれているのも確かだった。
だから安定が取れなくてよろよろとしか飛べないのか！？
大きくならないのか！？
僕は衝撃に言葉を失った。
「ロン。どうしたのさ」
ハリーがクィディッチの練習を終えて戻ってきた。これから僕と一緒にハーマイオニーを誘って城の地下を探検するのだ。
「ふう〜。暑いな、今年は……」
ハリーが汗でびしょびしょになった上着を脱いだ。
とたん。
僕の腕の中でカシャカシャという音がした。
僕は慌てて下を向いた。
「チビ！！」
チビの目が見開いて、ハリーの着替えをじっと見ていた。
「あああああ」
僕はどうしていいのか分からずにうろうろした。
「なにやってるのさ。ロン」
「ああああ」
「何でアワアワしているのさ？」
ハリーがおかしそうに笑う。
その笑みに、また「カシャ」という音が重なった。
シーリーウースーーー！！！
僕は眩暈に襲われた。
シリウスしかいない。
シリウスがチビにカメラを仕掛けているんだ。
そして、カメラのフィルムがなくなると、チビはどこかに行く……それは現像をしに。
そして、おそらく、新たなフィルムを入れに。
僕はそれからたくさん考えた。
ハリーのこと。
シリウスのこと。
チビのこと。
僕のこと。
答えはひとつだった。
僕は……僕は……。
「ごめん、ハリー」
「ロン？ 何を謝ってるんだよ」
「ごめん……」
僕はチビを手放せない。
チビがかわいくてかわいくてしかたがないんだーーー！！
僕はじっとハリーを見つめた。
でも、ハリー。君のために僕が出来ることならなんでもするつもりだよ。
ハリーのプライバシーを少しでも守るよう、お風呂とか、おトイレには絶対にチビを連れて行かないよ！
「なに泣いてるんだよ、ロン……。少しおかしいよ？」
「守るからな」
「は？」
「守るからな！ 俺が！！」
「……うん、ありがとう……」
僕は決意した。
そして今……。
「……２８……２９……３６」
シャーーーーーーーー！！！
「３６枚！！」
シャッターが切られる音を数えた僕は、３６のあと巻き戻っている機械音にちょっと感動していた。
「３６枚撮りなんだ……」
そして、見送る。
「気をつけて行ってこいよ」
チビが了解、とでも言うように鳴いた。
「ホーホー」
了
2001/09/09(Sun)