シリウス×ハーマイオニー
『ハーマイオニーと秘密』
それは、私がホグワーツに来て３年目の夏。
私は買ったばかりの日記を開いた。真っ白な紙は見ていても気持ちがいい。私はそれが文字で埋まっていくのを見るのが大好きだった。
１ページ目はすでに昨夜書いた日記がある。
私はそれに目を走らせた。
――――――――――――
ホグワーツの夏休みは２ヶ月間だ。
魔法の勉強も楽しいけど、両親と久しぶりに会えるのも嬉しいから、きっと２ヶ月というのはちょうどいい期間なんだと思う。もちろん、その間も勉強勉強！ ホグワーツにいては出来ないことをするつもり。
気になるのは、お友達のハリーだけど。
同じマグルであっても、私の両親とは大違いな保護者のもとに帰らなくちゃいけないんだもの。よくあんな人たちの下で、ハリーみたいな誠実で真面目な子供が育ったと、かえって感心しちゃうわ。
冬は寮に残ることが出来るけど、夏は絶対に帰らなくちゃいけない決まりがある。
今年の夏は、何とかハリーを気晴らしに外へ誘うことが出来たらいいんだけど……。
でも、どうしてハリーのおじさんたちはそこまで魔法使いを嫌うのかしら。
ハグリッドに聞いたんだけど、ハリーのお母さんリリーのご両親は彼女が魔女であることをとても喜んでいたらしいし、ハリーもおじいさんやおばあさんと暮せていたらもっと幸せだったに違いない。
もしかすると、妹さんはご両親の愛情をお姉さんに取られた、と思ったのかしら。だからよけいにリリーを嫌ったのかしら？
だから魔法使いが嫌いで、ハリーも嫌いなのかしら……？
――――――――――――
私は日記を閉じ、クルックシャンクスの首元を撫でた。
「あなたはどう思う？」
応えなどないのだけれど。
猫はゴロゴロと喉を鳴らした。私は笑う。
「もうすぐキングス・クロス駅に着くわ」
ちょっとドキドキする。
昨夜、寝る前にクルックシャンクスに話したことを思い出しながら、窓の外に目を向けた。
駅にはお父さんとお母さんが来ていた。
私を見つけると、お母さんが駆け寄ってきて私をぎゅっと抱きしめてたくさんのキスをした。
お父さんは身をかがめて私の頬にお帰りのキスをすると、そのまま足元の荷物を持ち上げた。
「クルックシャンクスは元気かい？」
「ええ。とっても！」
お父さんが笑う。笑って――ちょっと困ったように小首をかしげた。
「パパ？」
「実はね、あとで話そうと思ったんだが……」
私は「それ」を見て飛び上がった。
「シリウス！？」
叫んで、慌てて口を覆った。
家に帰ると、玄関の前に祖父母がいた。そして、その隣でおとなしく座っている動物がいたのだ。
黒い、犬が。
犬を拾ったのだ、と言ったのはパパだった。
「クルックシャンクスがいるから一緒には飼えないと思ったんだが、とても頭のいい犬なんだよ」
灰色の目、普通の犬よりも大きい、漆黒の毛並みの犬。
見当違いかも知れない。
でも――。
「そうなの。車に轢かれそうになったところを助けてくれたのよ」
私の腕の中でクルックシャンクスが歓迎の鳴き声を上げて、腕から飛び降りた。
「クルックシャンクス！」
「まあ大変！」
「おい！」
両親が慌てたけれど、クルックシャンクスと犬は楽しそうに鼻をこすり合わせて挨拶をしている。
お父さんがホッとしたような溜め息をついて、お母さんが驚いたように「まあ、まあ」と何度も言った。
「早速、気があったようだな」
よかったよかった。
「これで家で飼えるな」
「家で飼うの！？ うちで！？」
祖父母の歓迎を受けながら、私は叫んだ。
クルックシャンクスの懐きようを見たら、あの犬がシリウス・ブラックであることに間違いはない。
お母さんが犬の頭を撫でた。
「ブラック、これが私たちの娘、ハーマイオニーよ」
「ブラック！！？」
「ええ。そのままのネーミングじゃ芸がないかしら……？」
もごもご、と私は言葉を飲む。
黒い毛なのだから、ブラックと名づけても何の問題もない。
「……別に、いいと、思うわ……」
私は腰をおろして、ブラックの目を真っ直ぐに見た。
――シリウス・ブラック？
そう聞いてみる。
犬の目が細くなって笑ったように思えた。
犬が私の手を舐めた。
「……」
バックビークはどうしたのかしら、と私は思う。そのとき、家の横に、小さな囲いがあるのに気づいた。
「……」
そこには見慣れぬ鶏がコッコと鳴いていた……。
ブラックさん……。
変身術を使ったに違いない。
ハリーあての手紙には、無事隠れていると書いてあった。――確かに無事だ。
隠れてもいる。
私の家で。
「………………」
私は困惑したように彼を見た。
「ブラックさん……」
黒い犬は、にっこりと笑って、片目をつむった。そして、私の耳元に口を寄せて囁いた。
「そういうことだ。よろしく頼むよ、かわいいハーマイオニー」
犬の口付けを頬に受けて、私は思わず頬を染めてしまった。
「も……」
私は困ったようにうつむいた。
「もう……」
熱くなった頬を両手で覆う。
ハリーに黙っていられるかしら……？
今年の夏は秘密でいっぱいになりそうだった。
了
2001.09.12
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