シリウス×ハーマイオニー／丈田、狩野様（合作）
『白い花と君』
狩野
「シリウス！」
闇の森の少し手前で、ハーマイオニーが自分を呼んだ。
その声色は驚いているものだった。場所が場所だけに少々焦る。
「どうしたハーマイオニー！」
声を張り上げ、急いで側に行く。
ハーマイオニーは何事もなく木の幹に座っていた。そんな彼女に安堵する。
「脅かさないでくれ」
「たまにはいいでしょう」
ハーマイオニーは得意そうに笑顔を向ける。
ごくまれに彼女はこうやって自分を驚かす。
可愛いことをするなぁとつい考えに耽ってしまった。
彼女はそんな自分を不思議そうに見上げる。
本題に話を戻す。
「それよりどうしたんだい」
「そうそう！ これ可愛いでしょう」
彼女は自分の足下を指さした。そこには可憐に咲いている白い花があった。
「この前、薬草学の授業で教わったんだけど、この花…毒草ですってよ」
『毒草』の響きに眉を少しひそめた。
「大丈夫。食べても死なないわ。それに普通の人は花なんて食べないでしょ」
ほうほうと頷いて聴く。そういえば、自分はこの花を見た覚えがあった。昔受けた同じ薬草学の授業だった。
「ハーマイオニー。ひとつ忘れている」
彼女は驚いた風に自分を見上げる。
「この花はね、少量だと薬草になる。確か効用は心臓の強化…だったかな」
「流石ね。シリウス」
ハーマイオニーは満面の笑みを自分に向けた。
ハーマイオニーの笑顔に見惚れてしまった。褐色の髪が太陽光に反射してキラキラしている。そして自分に向ける笑顔のなんと可愛いことか…。
身体を傾け、ハーマイオニーの頬にそっと口付けをして離れる。
そして隣に座り耳元で囁く。
「姫様にそう言っていただけて臣は嬉しゅうございます」
頬を赤く染め、幸せそうな笑顔を自分に向ける彼女を心底愛しいと思った。
彼女の横で白い可憐な花が揺れている。
丈田
「ハーマイオニー」
シリウスが、あんまり穏やかに笑うから。
だから、この胸のドキドキがあなたに聞こえて、それで笑われてしまっているのではないかと。
「ハーマイオニー、どうしたんだい。そんなに強く握り締めたら、花がつぶれてしまう」
「え、ええ……」
どうして、彼の声で名前を呼ばれるとこんなにも嬉しいのだろう。
「ハーマイオニー？」
シリウスの長い指が、私の頬に当てられる。
――ああ、神さま。どうか、このドキドキが彼に伝わったりしませんように！
ぎゅっと目をつむった頭上から、クスリと笑う声がする。そして、軽い口付けが額に落ちた。
「ハーマイオニー。私にとっての花は、君なんだってことを忘れないで。この可愛らしい花は、私を生かす薬であり、殺すことのできる毒でもある」
「私……殺したりしないわ」
「そうだね」
なんだか、ぜんぜん信じていない言い方で。悲しくなってしまう。
「殺さないったら！」
私がにらみつけても、シリウスはやっぱり笑みをもらした。
「君が僕のそばにいてくれたら。それは幸せの薬になるだろう」
「……そばにいなかったら？」
「そばにいなかったら……」
シリウスが前かがみになって、私の耳に囁いた。
きっと、心臓の痛みに悲鳴をあげるだろう。
苦しんで。
君に届かない、その思いが溶けていく。
それは毒。
君を無理矢理手に入れたいと願う、強い毒。
「きっと、解毒剤を求めて君をさらいに行ってしまうよ」
シリウスが笑った。
了
2002.05.09