シリアス（スネイプ教授）
『光と影』
「あそこにいるのは……」
ダンブルドア校長に呼ばれて校長室に向かう回廊の途中、外で箒に乗っている少女を見つけたのは休日の昼過ぎ。
窓の外は真中の太陽が爛々と輝いていた。
少女のふわりと広がった明るい髪が陽光に照らされ、さらに輝く。
時折、身体の重心がずれるのだろう、何度も体勢を整える姿が見られた。
「……ハーマイオニー・グレンジャーか」
魔法薬学において成績優秀な生徒……。そして、ハリー・ポッターのそばにいつもいる少女……それが自分の中での彼女に対する知識だった。
ホグワーツの９０パーセントの授業において彼女の成績は群を抜いていた。残りの１０パーセントのひとつが飛行術……ということだろう。だが、確か成績はそう悪くはないはずだ。秀ではないにしろ、優は取れていたはず。
少女の身体がぐらりと傾き、私は心臓が高鳴った。慌てて駆け寄ろうとして、そのすぐそばにひとつの箒が寄り添ったのを見る。それは彼女の親友であり、自分にとっては決して脳裏から離れることのない者たちの形見だった。
優秀なクィディッチの選手でもある黒髪の少年は、少女の傾いた身体を支え、箒に乗るコツを教えている。そして、それに赤髪の少年も加わった。
「ポッター……」
それは、遠い昔の残像のごとく――。
――彼はもういないというのに。
ここまで父親に似ている少年の行動ひとつひとつが、まるで「彼」が生きているかのような錯覚さえ与える。
憎くて――それ以上に、抱いていた感情。それを思いだす。
口にすることすら苛立たしい。憧れ――だったのか。
光の中にいた彼等を、あの時も、そして今も自分はこうして見ているだけだ。
眩しいと感じるのは陽の下にいるからだ、と思う。
「スネイプ先生！ どうかしましたか？」
いつの間にそばに来たのか、ドラコ・マルフォイが笑顔で小首をかしげていた。
……この少年も、外の彼等を見て「眩しい」と感じるのかも知れない。決して、それを自覚することのないまま。
「……マルフォイ、君はここへ何の用だ」
この先は校長の部屋しかない。マルフォイは苦笑する。
「先生が見えたので、思わず来てしまいました」
「そうか」
「校長先生に御用ですか？」
「ああ……」
「待っていても？ 薬学でお聞きしたいことがあるんです」
私は頷いた。
「遅くなるようなら帰りたまえ」
「はい」
私は窓の外を見もせずに、踵を返した。
ただ、その窓に軽いスモークを入れるという魔法をかけて。
了
2002.06.02