シリウス×ハーマイオニーで新婚さんいらっしゃい
『朝ごはん』
「ハーマイオニー」
「なあに」
「ハーマイオニー」
「……なあに」
「ハーマイオニー」
「…………ん、なに？」
「食事中に本は読まない」
シリウスは腕を伸ばして、ハーマイオニーの手から分厚い本を取り上げた。
「あ――！ シリウス！！ 返してっ」
ハーマイオニーは立ち上がるとテーブルごしに本に手を伸ばす。が、シリウスはそれを首の横に持ち上げて彼女をにらんだ。
「だめ。ちゃんと御飯を食べる！ さっきから食べてないじゃないか」
「今日中に論文を仕上げなくちゃいけないの！ お願い！！」
「だめだ」
「シリウスだって、いつも新聞を読むでしょう！ お願ーい！！」
シリウスは片方の眉を上げた。そう。自分が新聞を読むときは彼女が怒るくせに。
「シリウスーー！」
ここはやはり食事を優先させるべき――だと、思うのだが。
「……仕方がないな」
シリウスは溜め息をつき、結局渡してしまう。
「ありがとう！」
ハーマイオニーの笑顔に、やっぱりシリウスは溜め息をつきながら立ち上がった。この笑顔を見てしまうから、何も言えなくなってしまうのだ。
シリウスは、ハーマイオニーの前に置かれたパンを台所に持っていくと、一口サイズに包丁を入れる。それを再び皿に並べた。
「ほら、ハーマイオニー、口開けて」
ハーマイオニーの背後に立ったシリウスが、一欠けらを鼻先に差し出した。
「ん？」
「食べて」
優しい声に、ハーマイオニーはシリウスの手にあるパンを口に入れた。もごもごと口を動かしつつも、やはり本から目を離さない。
「まったく……」
ハーマイオニーは、背後で笑うシリウスを見上げた。その視線が、テーブルを回って椅子についたシリウスを追う。
「そのほうが本を見ていても食べやすいだろう？」
シリウスはひじをついて腕を組んだ。優しい灰色の瞳がハーマイオニーを見つめる。
ハーマイオニーの顔が紅潮した。
「……ありがとう」
小さくつぶやく。ハーマイオニーは自分が甘やかされているという自覚がある。つい、それに甘えてしまうことも。
「どういたしまして、奥さま」
シリウスはにこにこと笑う。
「早く論文を終わらせてもらうためだから。夜、寝る間も惜しんでなんてことになると困るからね」
「え？」
「俺が」
シリウスは笑う。
ハーマイオニーの顔が耳まで真っ赤になった。
「――！ ばかっ！」
了
2002.11.21