ロン×ハーマイオニー
『雪合戦』
吐く息が白い。耳も凍えて冷えきっている。
「寒いわね〜」
マンドレイクを扱う際に使用する耳当てを借りたいくらいだ。顔に塗った保湿クリームは意味なく、肌もぱりぱりになってしまっている。
夜から降り続いた今年初めての雪は、朝にはホグワーツを白い世界へと変えていた。
「雪合戦をしよう」
そう言い出したのはハリーだった。冷え込んだ朝、元気なのはハリーだけだ。
雪だよ、雪！ とやけに楽しそうなハリーの様子に、ハリーが住むところでも雪は降るだろうに……と思ってから、彼の境遇を思い出した。雪合戦などしたことがないに違いない。
ロンもそれに気付いたのか、無言でコートを手に立ち上がり、私も「オーライ」と笑った。
談話室から出ると、空気が一気に変わった。外ではまたちらほらと雪が降り続いている。
「マフラーしないと風邪引くわよ二人とも！！」
「引くかよ」
ロンが舌を出す。この言い方！ 何とかならないのかしら。
ハリーがにこにこと笑った。
「熱くなるからいらないと思うけどな」
「でも、今は寒いでしょう？」
「そうか」
ハリーは笑って、杖を出すと背後に向かって軽く振った。
「アクシオ！ 来い！」
グリフィンドール寮の一角で窓が開いた。そこから赤い布が二つ飛び出し、こちらに向かって飛んでくる。マフラーだ。杖をしまった手でそれを見事にキャッチしたハリーは、一方をロンに渡した。
ロンが片眉をあげる。
「いらないよ、ハリー」
「まあ、そう言うなって」
ロンは肩をすくめ、マフラーを首にかけた。それを見てハリーが目を細め、今度は自分のマフラーを広げた。でも、自分の首には巻かずに私の首にかけた。
「ハリー？」
「僕はいらない。ハーマイオニーがしててよ」
ハリーはマフラーを私の首に巻くと、後ろで軽く縛った。
「女の子だもの、身体を冷やしたらだめだってよく言うだろう？」
「あ、ありがとう……」
ロンがにやりと笑った。その目が「名案」と語る。自分のマフラーを取り、ロンまでが私の首にマフラーを巻き始めた。
「そうそう、仮にもオンナノコだもんな」
「仮にもってなによっ」
「仮にもだろ？」
「まあまあ」
ロンの言い方に反発する私を、ハリーがなだめる。
ロンは私の口と耳をマフラーで覆って、時折見せる優しい笑みを浮かべた。
「変な格好」
「――！」
頭にきてマフラーを取ろうとした私の手を、ロンが止めた。
「冗談。風邪引くからしとけよ」
なんだかその声がやけに真剣で、私は返す言葉を失う。
「あ……ありがと」
聞こえるか聞こえないかの声で、私は二人に礼を言った。
この後、ハグリッドを誘い、ハリーとロン、ハグリッドと私のペアで雪合戦をした。
ハグリッドには悪いけど、私は彼を盾にして次々と二人を撃破。
「ずるいぞ、ハーマイオニー！」
「なに言っているのよ！ ハグリッドだって隠れる場所がなくて不利なんだもの、条件は同じでしょう！！」
「当ててもハグリッドは倒れないじゃないか！」
「そんなの知らない〜！！」
私が投げた球がロンの頭に当たって、彼が背後に倒れた。
「もう、やめだやめー！」
ロンの悲鳴に、私はハグリッドに抱きついた。
「やったー！ 勝ったわよ！！」
「ははははは！」
ハグリッドが嬉しそうに笑った。
身体はポカポカで、確かにマフラーはいらなかったかもと思うような状態になっている。
ハリーたちのところに駆けつけると、肩で息をしているハリーが楽しそうに笑った。
「また来年もしよう！」
さすがに明日もする気にはなれないらしい。私は笑って了承する。
「今度はもっと大勢でしたいわね」
グリフィンドールＶＳスリザリンでもいいかもしれない。一点集中攻撃で悲鳴をあげるドラコが見れるにちがいない。まあ、彼のことだから「そんな子供のような遊び」――と相手にされないかもしれないけれど。単純だから、きっと挑発したらすぐに乗ってくるだろう。
「きゃ！？」
突然、私の頭に大きな布がかけられた。
「な、なに！？」
ロンのローブだ。
「レディーは身体を冷やしたらいけませんよ」
ネクタイまで緩め、手で顔を仰ぐロンは気持ちよさそうな顔をしている。
「ちょっと！ ただ熱いから脱いだんでしょ！ 私だって熱いんだから自分で持ちなさいよ！」
「いやいやいやいや、そんなご謙遜を」
「してないわよ！」
３人分のマフラーにふたつのローブで身体から湯気が出そうなくらいに熱い。
「ちょっと！ ロン！！」
「なんだよ、まだ寒いのかよ。ハリーのも着るか？」
「着ない！」
ハリーとハグリッドがくすくすと楽しそうに笑う。
「もう！」
すたすたと歩いていくロンの後姿に、いっそ、彼のローブをここに置いていってしまおうか、とまで考える。
「大丈夫か？ ハーマイオニー」
ハグリッドが大きな巨体を丸めて私の顔を覗き込んだ。
「……」
私はハグリッドに両手を広げた。だっこ、とはあえて言わない。
ハグリッドは大きな目を細めて、私を抱き上げてくれた。
彼の目線から見下ろす地上が好きだ。まるで熊に抱き上げられているようだ、と思う。
目線の先でロンが私を見ていた。
「ずるいぞ！」
「レディーの特権よ！」
私はハグリッドの首に腕を伸ばして抱きついた。
「ね」
「――！ ハグリッドが重いだろ！」
「そんなことないわよ！！ ね、ハグリッド」
「ああ。軽い」
「ほらね！」
「〜〜〜！！！」
不平たらたらのロンに向かって、私は舌を出した。
了
2003.01.09