ドラコ×ハーマイオニー／りょく様
『If it is in bad taste.』
その日、何故僕はロナルド・ウィーズリーとチェスの勝負をする事になったのか、実は覚えていない。
あいつの隣で笑っているポッターとグレンジャーの笑顔が、憎らしかった。栄光ある、マルフォイ家のこの「僕」が抱く感情でないことは、分かっている。
ただ、あの時はどうしようもなかった。
『Check
Mate！！』
あの時、ウィーズリーが言った言葉は、実は覚えていない。
真剣な顔をして勝負をしていた彼には、気がつかれていないはずだ。
「この僕」がグレンジャーの顔を、彼女の表情をずっと伺っていただなんて。
だからすぐわかった。
彼女が「百面相」をしている事に。彼女の心のうちにあるのは、自分ではない事に。
何故だか、無償に腹が立った。
皆は、勝負に負けたから足音を立てて、部屋を出ていったのだと思っているのだろう。だけど、それだけは「違う」と言うことを、僕は知っていた。
バレンタインデーの当日、この間の空き教室で、グレンジャーが泣き笑いをしながら、何かを貰っているのを見た。
「それ」を貰って、涙でくしゃくしゃの顔。お世辞にも、綺麗だとは言わないだろう。
でも、僕はその表情が、何故だか綺麗だと思った。
マルフォイ家の僕が、マグルのグレンジャーを「綺麗だ」なんて思う事は、悪趣味だと思う。
グレンジャーから薔薇を貰ったらしい、ウィーズリー。
「それ」をあげて、嬉しそうな顔の中に、誇らしさが覗く顔。スリザリン生なら、憎らしい顔だと言うだろう。
でも、僕はその表情が、何故だか羨ましいと思った。
マルフォイ家の僕が、貧乏なウィーズリーを「羨ましい」だなんて思う事は、悪趣味だと思う。
でも――。
If
it is in bad
taste.
彼らが、とても輝いて見えていた事に、間違いは――ない。
了
2002/03/18