ドラコ×ハーマイオニー／りょく様
『心の中で言うのは』
まだまだ、寒い３月。イベント時期も当に過ぎ、退屈な日常へと戻る生徒たち。
遣らねばならない事は、多くあって。嫌々ながらも、課題をこなしていた、とある午後。
普段では、絶対見かけない組み合わせのペアーが、裏庭にいた。
――ハーマイオニー・グレンジャーとドラコ・マルフォイである。
「…何をやっているんだい、君は」
呆れた声を彼女、ハーマイオニーに声をかけた彼――ドラコには、「嫌なものを見てしまった」という言葉が、顔にかかれていた。
彼女は、苦手な飛行訓練をしていたのだ。
苦手なものは、苦手なもの。彼女はこの年になっても、かなりの練習をこなさないと上手く飛べなかった。何時もなら、ロンが練習に付合っているのだが、今日は何故だかいなかった。
「何…、ば馬鹿にするならすればいいわ！」
つんと、そっぽを向く彼女の声は、少し震えていた。
｢マグル何だから仕方がない」
さらりと、きっぱりとそう言われて、彼女は「かっ」となって言い返した。
「マグルで悪かったわね！ 私は悪いことだとは思っていないわ！」
どこを間違ったのか、彼女は自分がマグルである事を、馬鹿にされたと思ったらしい。
「…？ 僕は『仕方がない』と言っただけで、悪いとはいってない。言葉を間違えるな。グレンジャー」
いつもと、違う小馬鹿にした顔ではなく。普通の顔――女の子達が騒ぐ顔で、言った。
何も、言い返せないでいる彼女に、「練習をするんじゃないのか」と彼は尋ねた。
「僕がいたのでは、練習が出来ないというのなら、ここを離れるが…」
「どうする」と聞く前に、「そこで見ていて頂戴！」ときっぱりと言われた。
びくつきながら、危なっかしい感じで飛ぶ、彼女。「あれは、飛んでいるほうも怖いが、見ている方の心臓も大変だな」思わず彼は呟いていた。だが、「予想」に反して、彼女は何とか飛びきった。
「どうよ！」
思いっきり満面の笑みで、彼女はドラコに微笑んだ。
「心臓を鷲掴みにされる」とは、この事をいうのだろう。自分の顔が、赤くなっていないかと、彼はひどく焦った。
「…天変地異が起こっても、可笑しくないな」
そう言い返しながらも、彼は自分が微笑んでいるのを、自覚していた。
――結構、良い所もあるじゃないか。
そう、彼が思ったのは、心の中のことだけと、しておこう。
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「へぇ、ちゃんと飛びきったジャン」
そう言って、ドラコの後ろから声をかけたのは、ウィーズリーだった。その後ろから、何かを抱えながら近づいてくるのは、ポッター。
「うん、ちゃんと見てたよ。よかったね、ハーマイオニー。これでもう、安心だよ！」
良い年頃の男の子が、「にっこり」という表現が似合う笑顔をしているなんて、凄い。
「ど･･･どこから見ていたのよ！ 二人ともぉ〜」
顔を、ロンの髪の毛みたいにした彼女は、半分涙声だった。
その問いに、彼ら二人は「にやり」と笑いながら声を合わせていった。
「「…何をやっているんだい、君は」」
「んな！ なんて悪趣味なんだい。君たちは、流石…」
「マグル贔屓三人組みだ」と続ける前に、ポッターがドラコの腕に、何かを押し付けた。
「一先ず喧嘩は、今日はお預け。ハーマイオニーがちゃんと飛び切ったお祝いにね」
ハリーは、用意よく、ドラコの分までバタービールを準備していたのだ。
「…今日だけだ」
ドラコが言った台詞に、残りの三人は、笑った。
――偶には、こんな午後もいい。
そうドラコが思ったのは、心の中だけで。
了
おまけ。
「ドラコ、ハーマイオニーは渡さないから」
先ほどの笑顔とも、いつも見せる馬鹿っぷりとも違う「男の顔」で、ロンはドラコに釘をさした。
「この僕が、グレンジャーを？ ふん、馬鹿にするな」
言い切った、ドラコを更に鋭く睨むロン。
「ふーん。言い切ったな。それ、覚えとけよ」
別れ間際の、小さな、それでいて、大きなやり取り。
「あいつ、気が付いてないんだ」
ロンが呟いた台詞に、ドラコが気づくことは、なかった。
2002/03/18