ハク×千尋／塔子 　　　『鱗３』 秋の空は高い。 夏の色とは少し違った青が、天空に広がっている。千切れて浮かぶ雲も、夏の手に届きそうな白くはっきりしたものではなく、境界は薄く途切れてゆく。 その視界の隅に一条の白い筋があった。 飛行機雲だ。 細くたなびいたそれは、先端は雲の中へ入り、すでに視界の先へと旅路についたのか、あるべきはずの機体は見えない。反対の先は浮かぶ雲同様に、ぼんやりとぼやけるように、青い空へと消えている。 千尋は偶然目にとまったそれを、じっと、見上げていた。 「…………ハク…………」 意図せず口をついて出た言葉に、はっとしたように唇に指をあてる。 その言葉が何を意味するのかわからないまま、しかし突然唇に降りてきた言葉と、熱を含んだなにかが、胸の中を暖かくした。 唇に当てた指を、胸へと動かす。ほんのりと暖かいその場所に何があるのかわからないが、いつも困ったときにそこを触れるクセが、千尋にはあった。 「千尋〜？どうしたの？」 教室の中から友人が呼んだ。 なんでもないと笑いながら、もう一度、名残惜しげに白い筋を振り返る。 （ハク） 声に出さず唇を動かす。 それはほろ苦い思いに変わって、胸を締め付けた。 了 【小説掲示板　ログ15】 2001.10.06