ハク×千尋 　　　『鱗４』 「は！　ハク！！」 　目の前に現れた黒髪の青年は幼い頃に出会った少年が成長した姿に間違いなかった。迫力ある美女、という感じの美貌に誰もが見惚れ、驚いた表情を向けていた。そんな彼が、にっこりと優雅に笑って近づいてきたかと思うと、いきなり千尋の唇を奪ったのだから、仰天もいいところだ。キャー、と同級生たちの黄色い悲鳴が上がる。 「ハクっ！」 　何度もハクとの再会を夢見た。 　こう話し掛けようとか、こう挨拶しようとか、なんて言おう、とか。 「再会の挨拶だよ、千尋」 　それなのに、にっこりと嬉しそうに笑って、ハクは無邪気に小首を傾げるのだ。 「うれしくない？」 「そ、そういうことじゃなくて……」 　もごもご。 　千尋の顔は真っ赤になっていた。 　てっきり子供の姿で現れるかと思っていたのだ。これじゃあ反則だよ……と千尋は困ってしまう。 「うれしいけど……、その……」 　ハクは千尋の様子にくすりと笑い、彼女の額に唇をつけてささやく。 「知ってるよ。いつも呼んでくれていただろう？」 　名を呼ばれるたびに、会いに行きたいと思った。 　ハクは、千尋の中に息づく自分の鱗が、彼女の声をちゃんと届けてくれたこと、そして彼女を守ってくれたことに感謝する。 「もらいにきたんだ」 「……何を？」 　千尋はハクを見上げる。――見上げるほどハクの身長は伸びていた。 　体つきも細いがしっかりとしている。自分の身体がだんだんとふくよかになって胸も出たように、ハクも成長したのだろうか。――が、ハクは神さまだ。なんとなく違う気がする。 　もらいにきたとハクは言う。 　――なにを？ 　きょとんとしている千尋をハクは笑った。それはそれは優雅に。そして、ちょっと意地悪っぽい感じの笑みで。 　身をかがめると、千尋の耳元に唇を寄せ、ぞくっとするような美声でささやいた。 「……千尋を、ね」 　了 【小説掲示板　ログ15】 2001.10.06